笑顔のその先

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予想以上に何も無い冷蔵庫に、しばし思案する。 調味料はあらかた揃ってるし、器具も揃ってる。だけど材料が僕が持ってきた常備野菜とパスタしかない。 ナポリタン?でも、具が玉ねぎしかない。きゅうりの入らないポテサラはいいけど、玉ねぎしか入らないナポリタンは嫌だな・・・。 結局、この材料で作れるものには限りがあり、僕の乏しいレパートリーでは選択の余地はなかった。 ま、いいか。 最後に行き着くのはその言葉。 僕は何も無い時のお決まりセットを作ることにした。 レンジとIH(ここはオール電化だった!)を駆使して時間をかけずにできた料理をカウンターに並べていると、シャワーを浴びて部屋着になった冴木さんがちょうど入ってきた。 「すごいね。もう出来たの?」 「あり合わせで作った簡単なものですけど。お口に合えばいいのですが・・・」 「いやいや、こんだけ出来てれば十分だよ。・・・いただきます」 「どうぞ召し上がれ」 先に口をつける冴木さんを見てから僕も食べ始めた。 今日のメニューはペペロンチーノと、玉ねぎと人参のポテトサラダ、そして玉ねぎのコンソメスープ。 ・・・玉ねぎって、どんな料理にも入れられて便利だよね。 冴木さんはどれもキレイに食べてくれて、ポテサラはおかわりもしてくれた。 誰かのためにごはんを作ったのは久しぶりで、しかもこんなに食べてくれてすごくうれしい。 「ごちそうさまでした。どれもうまかったよ」 「お粗末さまでした。お口にあって良かったです」 お世辞でも褒めてもらえるのはうれしい。僕は気を良くして片付けようとしたら、それを横から止められた。 「片付けはオレがやっておくから、早瀬くんはお風呂に入っておいで」 そう言うと壁の給湯のスイッチを押した。 自分はシャワーだったのに、僕にはお風呂・・・。いいのかな?いただいても。だけど病院ではシャワーしか無かったからお風呂はうれしい。 僕はお言葉に甘えてお風呂をいただくことにした。 期待を裏切らない広い浴槽に、僕は手足を伸ばす。 気持ちいい・・・。 この家はどこもかしこも冴木さんの香りに満ちていて、その香りとお湯の心地良さに身体が安堵して力が抜ける。 このまま眠ってしまいそう。 だけど僕は、両頬をパチンと手で挟んだ。 気を抜かないように。 忘れないように。 流されないように・・・。 「僕は颯介さんのものだよ」 ずっと心の中だけで呟いていたその言葉を、実際に声に出して言う。直接耳に入ってきたその言葉をより鮮明に頭に焼き付けるために。 お風呂から上がると、冴木さんはもう寝室に入っていた。僕もそのまま与えられた部屋に入る。 さっき着替えを取りに来た時、ほとんど荷物は片付けてあったので、僕はそのままベッドに入った。 「おやすみなさい、颯介さん」 ベッドサイドに置いた颯介さんの写真におやすみを言うと、僕は目を閉じた。今日1日気を張っていたせいで、すごく疲れていたらしく、僕はすぐに眠ってしまった。
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