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僕が颯介さんに出会ったのは高校の時だった。
先生と生徒として出会った僕達には、最初から激しい感情はなかった。
初めは教科担任と受け持ちの生徒。
それがクラス担任になって、それまでよりもよく話すようになった。
最初からお互いに甘やかな香りを感じていたが、それがフェロモンだとは気付かなかった。
『いい香りがする』
その程度だ。
だけど、その香りが少しづつ身体を侵し、心を引き寄せ合って行く。
それでも僕達は、お互いに思いを伝えることも、触れ合うこともしなかった。たとえ僕が、発情期を彼を思って過ごしていたとしても。
僕はそのまま3年間を過ごし、仲良くしてもらった生徒として先生に別れを告げ、卒業した。けれど家に帰った瞬間、僕はどうしようもない衝動に駆られた。
それは、卒業をした実感が湧いた瞬間だった。
胸に花をつけ、手に証書を持って玄関に入ったとき、卒業した僕はもう高校には行かないんだと思った。そしてもう、先生に会うこともない。
そう思った瞬間、僕はそのまま家を飛び出して学校へ向かった。
どこにいるかなんて知らなかったのに、先生の香りが僕を導いてくれる。
人気のなくなった校内を走り、香りをたどって行った先の準備室に先生を見つけると、僕はそのまま身体ごとぶつかった。
びっくりした顔の先生はそれでも僕を受け止め、強く抱き締めてくれる。
そのあとはお互い何も言わなかった。
僕はまだ予定ではないのに発情し、先生も身体を熱くした。そして、僕達は本能のまま身体を重ね、交わり、番の儀式をした。
全てが終わり、熱が去っても、僕達はそのまま抱き合い、まるでそれが最初から当たり前であったかのようにお互いに言葉も無く肌を重ねていた。
今までどこにそんな感情が隠れていたのかと思うほど先生への感情が溢れ出し、止まらなくなる。そして先生も、僕に対して同じ事を思っていてくれるのが分かった。
細胞の一つ一つがまるで先生と繋がったかのような錯覚を覚え、先生の感情も流れ込んでくる。その不思議な感覚に浸っていると、先生は僕のうなじに手をやった。その瞬間、鋭い痛みが走る。
『ごめん』
先生はそう言うと立ち上がり、僕のうなじの手当をした。
僕はその時初めてうなじを噛まれたことに気づき、けれど謝られたことに心が傷ついた。
先生は僕のうなじを噛んだことを後悔している。
涙が溢れて止まらなかった。
僕はうれしかったのに・・・。
うなじを手当されるにつれ、感情は高ぶり、涙は止まるどころか嗚咽まで出てきた。そんな僕を先生は淡々と手当する。
『ごめんな。もう少し加減して噛めばよかったのに、オレ、歯止めが効かなくなって・・・。痛いよな』
その言葉に、僕は振り向く。ちょうど手当も終わった時だった。
『・・・噛んだことを後悔してるんじゃないの?』
その言葉にキョトンとした先生は途端に焦り出す。
『か、噛んじゃいけなかったのか?!』
先生はその場に手を着くと頭を下げた。
『お前の本意じゃないのに噛んですまん。責任はとる。お前の一生はオレが見るから!』
僕はその言葉に、今度はうれし涙が流れた。
『先生以外は嫌だ。だから絶対責任取って』
僕は土下座している先生の首に抱きついた。
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