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「で、元締めの具合はどうなんだ?」
契約書の写しを受け取りながら、俺は小笠原に尋ねた。
「大将は不死身さ」
というのが、驚嘆を含んだ小笠原の答えであった。
「医者や看護師が魂消るほどの回復力を発揮しているよ。人間と云うより、野生動物に近いそうだ」
「まさに野獣か。さすがは豹馬さんだ。俺の懸念など無用だったな……」
「そんなことはないさ。君が心配してくれていると知れば、きっと喜ぶぞ」
「どうかな。長谷川さんにとって、俺は将棋か、チェスの駒に過ぎない」
「仮にそうだとしても、大将は君を買っている。これは相当珍しいことだぜ」
「……」
「ソードマンとしての技量に加えて、仁義も心得ている。大将が気に入るわけだ」
俺は頭(かぶり)を振って、
「仁義だって?やめて欲しいな。俺は博徒(やくざ)じゃない」
「では、狂山先生、直々の誘いを断ったのはなぜだね。先生の軍団は、全スライムハンターの憧れだ。なかなかできないことだぞ、これは」
狂山先生とは、業界最大の実力者、虻沼狂山のことである。
「なぜ…と云われても困るな」
「大将との約束を優先してくれたからではないのか」
「それを思い出したのは、断った後だよ。あの時、俺は俺の意志に従っただけさ。結果的に『約束を守った』ことになるのかも知れないけれどね。恩を感じてもらっては、かえって心苦しい」
小笠原は口辺に微苦笑を浮かべつつ、
「照れるなよ、魔宮遊太。素直になれ」
「入門したところで、虻沼組の戦闘員(コンバットマン)なんて、俺にはとても勤まらんさ。俺は長谷川組の足軽で充分だよ」
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