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「この男を知っているかね」
と、小笠原は一枚の写真を取り出した。全盛期の田宮二郎そっくりの人物が映り込んでいた。顔も服装も紳士然としているが、おそらく、堅気ではあるまい。消そうにも消し切れぬ、抜き身の刃めいた危険な香りを漂わせている。
「いや、まったく知らないな。何者なんだ?」
「漆戸徹也」
「と云われても、俺にはわからないよ」
「〔パンサラッサ〕の幹部の一人だ。日本支部の束ねを任されているそうだ」
「パンサラッサ……」
それを聞いた瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。パンサラッサとは「世界征服」という大変愉快な目標を掲げている巨大シンジケートの名称である。ギャング団の頂点に君臨するナンバーワン組織。パンサラッサの実力と勢力は、今や「国家水準」に達しており、各国の警察や軍隊も手を焼いているという。
「パンサラッサの漆戸さんか。あまり関わりたくない男だな」
「同感だ。しかし、そういうわけにもゆかなくなってきたのだ」
「なぜ」
「やつらが俺たちの業界に食指を動かしている気配がある」
「パンサラッサがスライム狩りをやるって?」
「対スライムに特化した専門部隊を送り込んでくるという噂だ」
パンサラッサの特殊部隊。やつらのことだ。一流の殺し屋が揃っているに違いない。戦慄と同時に、なぜか俺は、猛烈な興味を覚えていた。
「へえ。強力な商売敵(ライバル)の登場だね。はははは。面白くなってきたな」
「笑い事じゃないぞ、魔宮君。狂山先生も警戒を強めておられる」
「もしパンサラッサが東京のスライムを掃討したら、俺たちは全員失業だね」
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