8人が本棚に入れています
本棚に追加
[4]
俺は漆戸徹也の写真を再び眺めながら、
「小笠原さん、あんたが俺にこれを見せたのは、パンサラッサとの抗争(けんか)に備えて、ボスの顔を憶えておけということだね」
「まあ、そうだ。抗争になるかどうかは、現時点ではわからんが……」
俺の「けんか発言」に小笠原は苦笑していたが、表情を改めて、
「やつらの目的が『都内のスライムを全て駆逐する』だけとは考え難い。何か他の、真の狙いがある筈だ」
「結局、勢力拡大のためじゃないのか?だって、パンサラッサは世界征服を標榜しているんだろう?そんなものにどんな意味や価値があるのかはさておき」
「やつらは本気だよ、魔宮君。大真面目で世界征服に取り組んでいるんだ」
「まるでショッカーだね」
俺はくすくす笑いながら、そう云った。小笠原は半ばあきれた表情で、
「随分嬉しいみたいだな。何がそんなに面白いんだ?」
「あまりにも荒唐無稽な話だからさ。ここまで突飛だと笑うしかないよ」
「君も相当突飛な存在だがね」
「俺が?」
「昼はアクター、夜はハンター。そんな二足の草鞋を履いているのは、東京広しと云えど、君ぐらいのものだよ」
「全ては成り行きさ。俺が自ら望んでこうなったわけじゃない。あの日、元締めがスカウトしてくれなかったら、俺はおそらく、今もヒーローショーのバイトを続けていたと思うよ」
「なかなか見事なスーパーヒーロー振りだったと聞いている。仮面ライダーも演じたのかい?」
「勿論演(や)らせてもらった。案外受けたよ。俺は華のない役者だけど、殺陣や荒事に関しては多少自信がある」
「えっ。君は華がないのか」
「悔しいけどないよ。せめて、あんたのオーラ量の半分…いや、四分の一でも俺にあればなあ」
小笠原は頭(かぶり)を振ると、
「俺にはわからんな。君ほど容姿に恵まれた青年は滅多にいないだろうに」
「華は天賦の才。努力や精進では決して得られない。神様の贈り物だからね」
最初のコメントを投稿しよう!