わん・おん・わん!

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わん・おん・わん!

「そんなわけだ、梨花!今日から暫くよろしく頼むぞ」 「どんなわけで!?」  私は思わず反射的にツッコミを入れた――目の前のトイプードルを相手に。  そう、喋った相手はトイプードルである。茶色のふわふわ、二歳になったばかりの可愛らしい我が家の愛犬“モカ”ちゃん(♀)だ。いつも通りに部屋でもふもふしていたら突然喋り出したのだからとんでもない。しかも、メスの犬のはずなのにおじさんの声で、だ。何でこんなことになった。可愛い顔とのギャップがとんでもないのだが。  しかもそのおじさんボイスになってしまったモカちゃんは、初っ端にとんでもない爆弾を落としている。 『よう梨花、久しぶりだな。俺はお前のお父さんだ!少しの間だけこのモカちゃんの体を借りてお前の傍にいることになったぞ!』  ツッコミどころが多すぎる。父親を名乗る存在が何でいきなり犬に憑依するなんてことになるのだ。可愛い可愛いモカちゃんを返せこの野郎。私がそう睨むと、男(?)はふふん!と尻尾をピンと立ててのたまってきた。 「安心しろ、このモカちゃんにはきちんと交渉済みだ!期間限定なら体を貸してやってもいいと言ってきたぞ、条件付きで!」 「条件?」 「俺が憑いている間、きちんとご主人様をお守りすること!あ、あと近所のオス犬の“クロタ”とかいうやつがマジでうざいから、近づいてきたら必ず吠えるか唸るか砂かけるかで追っ払うこと、まかり間違っても求婚に応じないこと!それと餌の増量をご主人様に交渉することだ!」 「……あとでモカに言っておいて。あんた食いしん坊すぎて体重ヤバくなってきたから餌減らされたんだって。もっと食いたいなら散歩でだっこせがむのやめなさいって」  そんなことまできっちり知っているあたり、モカと交渉したというのは本当なのだろう。私は頭を抱えるしかなかった。可愛い可愛い愛犬が突然オッサンボイスで喋る犬になってしまったというだけで大問題だが、それ以上に複雑な事情がこちらにはあるのである。  モカに取り憑いているという男――父親を名乗る人物に、私は良い印象がないのだ。  彼は私がまだ幼い頃、母親と離婚してそれきり顔も見せてはいないのだから。
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