1.オタク令嬢はめげない。

11/14
前へ
/192ページ
次へ
ロット独自の思考から問いただしたものであったり、まだまだ答えを導くのは程遠いものまでこの一冊には書かれていた。 そしてもう一冊の小さな手帳は、王宮薬剤師だった母エヴィリアが書き記した薬草の図鑑。 すんと鼻先で手帳を嗅げば、薬草独特の匂いが手帳にこびり付いている。これも世には出回っていないイリアの宝物の一つだ。 イリアが幼い頃から二人は書いては消し書いては消しを繰り返して書物を作り続け、作り出した本をイリアの十ニ歳の誕生日に手渡した物。 二人の存在を失った悲しみは未だに残っているが、この二冊の本がイリアを強く、そして研究を追求する精神に磨きをかけたのだった。 ーー今日は、何か手がかりになる書物が見つかると良いんだけれど。 腹の虫を落ち着かせたイリアは家の中へと潜り込み、慣れた足取りでとある一室に向かうと、扉をそっと開けた。 カビ臭さはあるが嗅覚は鈍感なものでその場の空気を吸い続ければ、カビ臭さを感じにくくなっていく。 元々は微生物の観察や研究をしていた部屋で、繁殖しやすいような部屋設計にしたらしい。 結果的にあまり使われなくなったこの部屋は書斎になり、カビの繁殖最適空間へと生まれ変わってしまったのだ。 「ん〜……今日はこの辺を漁ろうかな」 膨大な量の書物をかれこれ二、三年はイリアなりの早いスピードで読み漁ってはいるものの、書斎の半分にも満たない量しか読み進められていない。 前まではキッチリ本棚の通りに本を手に取っていたが、どれだけ進めても終わりに近づかないのならその日興味ある本を読み漁る方法に切り替えた。 「『下処理と危険薬草の成分抽出方法』か、これはきっとお母様の本ね。あとは……」 一冊の本を抜いて、他の本をどれにしようかと迷いながら部屋の中をうろうろ散策しながら、ピンとくるタイトルを探す。 物によってはもう背表紙の文字は消え、ボロボロになっている物もある。 そんな中、先程抜いた本の奥に見える本棚の背板に何か見えた気がして、元いた場所に戻る。 薄暗くてよく見えはしないが、背板に何か付いていることは確かだ。 「何だろう?」 ゆっくりと本棚の奥へと手を伸ばして、背板に貼り付けられた物を慎重に剥がす。 器用に溶かした蝋で接着されており、やったのはロットであることは明らかだ。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

193人が本棚に入れています
本棚に追加