12.始まりはいつもここから。

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照れくさそうな仕草を見せる彼を初めて見れたイリアの顔も自然と笑みが灯る。 あれだけの恐怖に襲われても尚、こうして再び笑顔でいれるのが何よりも幸せに思えた。 地上の風と戯れるように空を飛んでいくと、ネグルヴァルトの濃い霧が立ち込めているのが見える。 久々に見たネグルヴァルトの霧に、ライジールから預かったムーンストーンのネックレスを服越しに握りしめる。 すると森を囲むような光の柱が空を突き抜けた。あれだけ濃かった霧も吸い込まれるように、姿を徐々に消していった。 ヒューリと目を合わせて頷くと、ヴァイルが森に目掛けて降下していき大好きな土の香りが鼻を擽る。 地面に着地して二人並んでその光の柱の前に立つと、イリアの胸元が熱くなるのを感じ慌ててムーンストーンのネックレスを取り出した。 熱を帯びたネックレスが太陽の光に反射し光の柱を照らすと、そこに文字が浮かび上がる。 「元に言葉を示せ、えっと……」 半分は読める文字であるのに対して、残りはカデアトの古代文字で中々最後まで読み切れずにいると、ヒューリがイリアの手を取った。 「アバルト・ジ・ディドロフ……全ての終わりは、全ての始まりへ、か。賢者様も考えたことをするものだな」 ーーそっか、ここはこの世界とカデアトを結ぶ土地。両者が揃わないとこの言葉は読み解けないようにしてあるんだ。 両地の掛橋となる存在がいなければ、この解答は永遠に分からないままこの地で眠っていた。
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