2.オタク令嬢はドラゴンと出会う。

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小さな峠を越えてしばらく進むと、イリアの目指す場所が見えてきた。 麻袋から薬草の塊を取り出し、ランタンの中に入れるとその薬草は独りでに光を灯す。 それを待っていたかのように、目的地にも同じような光が小さく見えた。 桟橋を渡って、崖に囲まれたその場所は、ランタンの光に反応して青白い光を纏い始める。 野生馬から降りて、その場所ーーネグルヴァルト、またの名を【死への入口】と呼ばれるその深き森にイリアは足を踏み入れた。 「ありがとう。朝になる前にここを出るから、いつもの場所で寝ておいで」 森の入口で野生馬から手綱を取り外して、体を撫でてやると元きた道を戻るように、野生馬は姿を暗闇の中に消していった。 その姿を見送ってから、イリアはランタン片手に森の奥へと突き進んで行く。 風に合わせて瞬く間に黒い花を咲かせるのは、ドルモルトという花で人体に影響のある毒素が葉や茎に含まれている。 根にある根粒から生成される毒素は植物全体に行き渡っており、植物を傷つけるとそこから出る汁に触れると炎症を起こす近寄り難い花。 だが何の迷いもなくイリアは鞄の中からナイフを取り出して、黒い花びらを広げるその花の茎を切り落とした。 「今日も新鮮な花をどうもありがとう」 その花を小瓶の中に詰めると、成長が止まったドルモルトは地面の中に埋まっていく。 奥へと目をやれば、そこにはマルベリー色の細かい実がなっている木、ハサデルカがあるのに気づく。 ハサデルカは麻痺性のある実をつけ、種を守る。 その麻痺性はかなり強く、一口齧れば五年は立って歩くことが出来なくなる程の麻痺性を持つ危険な植物だ。 案の定、イリアはその実すらも手に取って小瓶の中へと詰め込む。 「やっぱりここは落ち着くなあ」 どこからか舞う有毒キノコ、アマナケシの胞子が森が不思議と放つその淡い光の中で雪のように降り注ぐ。 この胞子を吸うと神経障害が発生し、幻覚や幻聴の出現が現れ、知覚異常まで出現する。 だが……イリアは全てを知っている、何も自分には害がないと言うことに。
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