2.オタク令嬢はドラゴンと出会う。

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この森は日中は、吸えば肺の細胞を壊死させる有毒ガスが混じった濃い霧が立ち込め、入ったら最後と言わんばかりのありとあらゆる植物の有毒性にやられ死へと落としやる森。 誰も利益のない故に何処の国にも属されない、辺境の地。 迂闊に近づいてしまえば、待っているのは死のみ。 そんな森を各国がなんとか領土にしようと試みたが、焼き付くそうにも濃い霧があるお陰で放つ弓矢の火は消えてしまい、次々と匙を投げる始末だ。 結果、何処にも属すことなく、何百年とこの森自身で歴史を刻み続けている。 そんな森に興味を持ち始めたのは、イリアが九つの頃。父母共に危ないからやめなさいと言われてはいたが、研究熱心な二人はイリアに、森について記された書物を与えた。 そこからこの森の虜になった、イリアは屋敷から程遠くない所にあるこの森へと足を運ぶようになった。 止める相手はもうこの世界には存在しないことを少し切なく思ったりもしたが、やめることはなかった。 『いつか役に立つものを発見したのなら、その研究は絶対に貫きなさい。それが研究者としての意地だ』 いつか言われたその言葉通り、イリアはここで役に立つものを見つけそれを貫く為にイリアは今日もここへとやって来る。 作業しやすいように整えた切り株と雨を凌げる小さな洞窟のあるイリアの作り出した空間に辿り着き、鞄の中から道具を出した。 「今日も張り切っちゃうわよ……!」 摘み取ったドルモルトの花とサハデルカの実を切り株の上に並べて、麻袋の中から乾燥した薬草を取り出した。 それを持ってきた薬研で擦り合わせていく。 薬草独特の香りが肺いっぱいに広がり、自然とイリアの口角が上がった。
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