2.オタク令嬢はドラゴンと出会う。

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その上貴族令嬢という身分になったというのに、そんな研究をしていることがバレたらこの森には一切踏み込むことができないと確信していた。 自由を奪われるのだけは避けたいと、誰にも言わずにこの森へと毎晩やって来ては、朝方の霧が立ち込める前に屋敷へと戻り……毎朝叩き起される日々。 だがイリアはそんな生活でもこの時間があるからこそ、やってこれた。 この先もイリアの中で隠し通すつもりではいる。 ーー出来上がった薬もこっそりと街の薬屋に少量ながらも売ってるし、その薬が誰かの為にはなっているし……自由だけは奪われたくない。 いつかこの森が何故太陽の光を嫌うのか、それが導き出せたその頃にはきっとイリアもいい大人になっている。 その時にでも公の場で発表するのも悪くない、そう思いながら新しい薬草で何か作ろうかと腰を上げた時だった。 「なっ、何?!」 轟音と共にアマナケシの胞子が大量に空へと舞い上がり、地面が短く揺れた。 何が起こっているのかは、はるか頭上に伸びる森の木々のせいで全く状況が掴めなかった。 異例の出来事にイリアは咄嗟に散らかっている道具は後回しにし鞄を鷲掴みして、胞子が舞い上がるその場所へと駆け出した。 静けさしか広がらないこの森に初めての響き渡る音は、微かにも地面さえも揺らしていた。 その事に気づきながらも地面を踏みしめて舞い上がる胞子目掛けてイリアは奥へと進んだ。 ーーこの先は確かネクリアに続いてるから、周囲には十分気をつけなくちゃ。 ネクリア、それは地の底へと続く大きくぽっかりと空いた深い深い縦穴のことで、この森に隠されるような形で存在する場所。 夜にしか来ないイリアは、森が明かりを放っているとは言えども、その縦穴の吸い込まれそうな暗闇へと続く断崖絶壁を見た時は腰を抜かすかと思った程だった。 怖いものを知らないイリアでも、人間が対抗しても勝てない相手には端から見極めて自ら挑戦しない主義でもある。
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