今日もまた透明になった

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 今日もまた透明になった。  今日は数匹の犬が透明になったみたいだ。リードを持った人たちが道を歩いている。しかし、そこに本来いるはずの犬が僕には見えない。  僕にとって最初に透明になったのは新聞だった。半年前のある日、電車内で僕の正面に座る小太りでスーツ姿の男性が突然両手をまっすぐ顔の前に突き出した。  それに気付いた僕はその男性に不審に思われない程度にそちらに視線をやった。でも、どれだけその男性を見ていても、彼は一向にこちらの視線に気づかない。  次に僕はしっかりと顔を上げて、正面から大胆に男性の顔を眺めた。確かに、彼の目は僕の方を見ている。だが、それでも彼は僕からの視線に何の反応も示さなかった。彼の焦点は僕の顔より遥か手前、突き出した彼の右手と左手の間の空間に合っているようだった。  やがて、電車はその男性が降りる駅に近づく。すると、彼は顔の前に広げていた両手を近づけ、何度か二つの手をぶつけた後、彼のカバンの中に片方の手を差し込んだ。  そして、そこで初めて彼は僕の視線に気づいた。「何か?」と言わんばかりに怪訝そうな顔を僕に向ける。僕は慌てて彼から視線を逸らした。
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