今日もまた透明になった

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 だが、それももう限界に達した。これ以上こんな生活を続ける事はできない。今日、僕は高島に色々な物が見えなくなっている事を告げようと思った。高島は信用のおける人間なので、僕の秘密を知ってもそれを周囲に漏らす事はないだろう。  僕は自分の仕事が終わると、高島を探した。高島は社内の喫煙所で煙草を吸っていた。喫煙所には高島以外、誰もいない。秘密を打ち明けるにはいいタイミングだと思った。  僕は喫煙所の扉を開けて中に入った。高島は人差し指と中指を口の前で立てている。高島が吸っている煙草も吐き出す煙も透明になってからもう二か月くらい経っていた。 「あれ、お前煙草吸ってったっけ?」 喫煙者ではない僕を高島が不思議そうに見た。 「いや、ちょっと話があって。」 僕は何の前置きもなしに話を切り出した。 「実は半年くらい前から色んな物がまるで透明になったみたいに見えないんだ。でも、みんな普通に生活しているからきっと僕だけが見えてないんだと思う。実際今も、高島が吸っている煙草が僕には見えない。やっぱり僕は頭がおかしくなってしまったのかな?」 僕は物が見えない事を高島に打ち明けた。  高島の口はぽかんと開かれている。それが煙草をくわえているからなのか、それとも僕の話に唖然としているからなのか、煙草が見えない僕には分からなかった。 「お前、それ本気で言っているのか。」 高島が言った。僕は高島の言葉に頷く。 「ちょっとついてこい。」 高島は煙草の火を消す素振りをすると、そう言って喫煙所から出て行った。  僕は高島の後を追った。僕の話を聞いて高島はどう思っただろうか。やはり、僕の頭がおかしいと思ったか。そうだとすれば、僕は今から精神病院に連れていかれるのだろう。僕はやはり高島に言わなければよかったと思った。
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