月下のヒーロー

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 大きな、あまりにも大きすぎる月が空に浮かんでいる。  月の光に照らされて浮かび上がるのは、観覧車やジェットコースターといった遊具施設だ。月明かりの遊園地。それが今回の『異界』の姿であった。  遊園地を行き交うのは、無数のシルエット。何故か月明かりを浴びてもシルエット以上の情報が伝わることのない人々が、さざめきながらXの視界――ディスプレイの中を行きかっている。  そして、どこか調子外れのBGMを聞きながら、Xはその場に立ち尽くしていた。このきらびやかな光景を前にして、彼は一体何を思っているのだろう。私には想像もつかない。  やがてXは歩き出す。シルエットの人々の中で、唯一色と明確な形を持っているXを、しかし人々が見とがめることはない。もしくは彼らから見たらXも同じように見えているのかもしれない。  並ぶ遊具には目もくれず、Xはふらふらと歩いていく。影の人波を縫って歩いていると、突然、人々が群がっている場所を見つけた。よくよく見れば、奥にはステージが設えられており、やはりシルエット姿の何者かがその上に立っているのが、かろうじてわかる。  Xの声が、ステージの看板に書かれている文字列を読み取る。 「ヒーローショー……」
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