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引き上げ作業は問題なく終了し、Xは凪いだ表情で寝台の上に腰かけている。Xの表情から考えていることを読み取るのは不可能に近い。ただ、今回ばかりは、何故だろう、いつもと同じ表情のはずなのに、妙にちりちりするような気配を感じ取っている。
「X。……どうして引き上げを望んだの」
発言を許可した上での質問に、Xは視線だけをこちらに向けて、口を開く。
「どうしてでしょう。私にも、よくわかりません」
「何か変よ、X。あなたらしくもない」
「私、らしく?」
Xの目がわずかに見開かれる。はっきり言ってこれは私の失言だ。私が「らしさ」を語ることなどできやしない。連続殺人を犯した死刑囚である、ということ以外にXがどのような人間なのかを知らないまま「運用している」私には。
しかし、Xはことさら私を責めることもせず、視線を切って言う。
「そう、ですね。最低限の役目すらもこなせないようでは、サンプル失格ですね」
「そうは言っていないわ。ただ、あなたが探索を放棄するのは珍しいって話。あの少年に、何か思うことでもあった?」
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