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Xの態度はあのシルエットの少年と出会ってから明らかにおかしくなったように見えたし、X自身それには自覚的だったのだろう。「そうですね」ともう一度言って、手で己の首をさする。あの少年にそうしてみせたように。
「結局、私は倒されずにここにいます」
「どういうこと?」
「ヒーローなんていない。……あの少年も、いつかは気づく日が来るのかなと」
それとも、気付かないまま走り続けてしまうのかな、と。
Xはそれだけを言って、口を噤んだ。
私はXの言いたいことを理解することはできない。この男には時々そういうところがある。自らの言い分に自分自身で勝手に納得してしまう、ような。
だから、私は何もわからないまま、浮かび上がった問いを投げかけることしかできない。
「あなたにも、あの少年のように、ヒーローに憧れる頃があったの?」
「ええ。強いヒーローになりたかった。どんな悪にも負けない、強い、強いヒーローに」
Xは少年の口ぶりを真似てそう言って――それから、表情をわずかに歪めた。
「だから。彼には間違って欲しくないなと、思っただけです」
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