月下のヒーロー

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 そこにいるのは、悪の手先を懲らしめるような、まさしく子供が夢見る正義の味方なのだろうが、ディスプレイに映るのはあくまでシルエットでしかなく、ステージに上っているどれがヒーローでどれが敵役なのかもわかったものではない。  Xはショーに集まる人々の輪から一歩離れた場所に立って、人々の頭の間からかろうじて見えるステージをぼんやりと眺める。響く音声は、ヒーローが今まさに敵に追いつめられていることを告げている。  その時、不意にXの視界がステージから足元に向けられる。見れば、Xの側に小さな子ども――と思しきシルエットが、Xの服の裾を掴んでいた。他の子どもたちは大人のシルエットと一緒にいるだけに、たった一人でいるというのは違和感が強い。それは現実もこの『異界』も変わらないようだった。  小さな指でXの服の裾を握りしめ、子どものシルエットは少年の声で言う。 「あの、僕のお父さんとお母さんを、知りませんか」 「いえ、知りませんが……、迷子ですか?」 「はい。はぐれてしまって」  少年は思ったよりもずっとしっかりした、落ち着いた口調で言った。きっとXは戸惑いの表情を浮かべたに違いないが、それでもすぐに少年の手を握って言った。 「誰かに報せた方がいいですね。行きましょうか」
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