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「あっ、待ってください」
少年が、Xの手を引く。Xがそちらを見れば、シルエットの少年は躊躇いがちに、ステージを指さした。
「最後まで見てからでも、いいですか」
果たして、Xがどのような表情をしたのか私にはわからない。わからなかったけれど、もしかすると彼には珍しく笑ったのかもしれなかった。微かな笑みの気配を言葉に乗せて、言う。
「いいですよ。……ああ、これではよく見えませんよね」
Xは視線をぐっと下げて、少年に手で何かを指し示したようだった。少年はちょっと躊躇ったようだったが、恐る恐るXの肩に両足をかけて座ったのがわかった。Xはそのまま少年を肩車して持ち上げる。
「わ……っ」
頭上から少年の歓声が聞こえる。
「見えますか?」
「はい! ありがとう、ございます」
弾む声を聞きながら、Xもまたステージに目を向ける。音声は、追いつめられていたはずのヒーローが逆転し、敵に必殺技を放つところであった。その時、わずかにディスプレイの視界が狭まったのは、Xが目を細めたからに違いなかった。
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