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Xは、しばらく少年をじっと見つめていたようだったが、やがて少年の頭にそっと手を乗せて、軽く撫でてやった。
「本当じゃないからといって、必ずしも邪魔になっているとは限りませんよ」
「そう、ですか?」
「もちろん、私は君のご両親を知らないので、本当のところはわかりません。けれど、確かめる前からそう決めつけてしまうのは、おかしいのではないでしょうか。違いますか?」
普段になく、Xは饒舌だった。相手が年端のいかない子どもだということもあるのだろうが、彼がここまで丁寧に言葉を尽くそうとしているところを見たのは、初めてだったかもしれない。
少年は、しばしXを見つめた――のだと、思う。シルエットの顔から読み取れる情報はあまりにも少ない。Xが少年の顔を覗き込むと、少年はXの手をぎゅっと強く握りしめて、言ったのだ。
「……邪魔じゃないと、いいな」
Xはその手を握り返すことで、少年の声に応えた。俯き気味だった少年の顔がぱっと上げられて、それからことさら明るい声で言った。
「おじさん、あと一か所だけ、付き合ってもらえますか?」
「いいですが……、どちらに?」
「僕、観覧車に乗りたいんです」
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