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「私も、君に会えてよかったと、思います」
Xの片方の手が少年の肩から首へと移動する。少年がびくりと震えるのにも構わず、Xは少年の首筋を撫ぜる。
「君は、……ヒーローは好きですか?」
「は、はい」
少年は、Xの手の動きに気を取られたのだろう、逡巡の後に頷いた。Xは少年の首から手を動かさないまま、少年をじっと見つめて質問を重ねていく。
「ヒーローになりたいと思ったことはありますか?」
「はい。なりたい、です」
「なら、どんなヒーローになりたいですか?」
私にはXの質問の意図がわからない。『異界』での言動はXに委ねられているとはいえ、今まではほとんどの場合、Xの行動の意図は明瞭であった。だからだろうか、妙に落ち着かない心地になる。自分は今、何を見せられているのだろう?
それでも少年は、はきはきとXの質問に答える。
「強いヒーローになりたいです。どんな悪にも負けない、強い、強いヒーローに」
少年の声は、どこまでも凛としていた。背筋をぴんと伸ばし、こちらに手を伸ばすXの視線を真っ直ぐに受け止めて。Xは果たしてそんな少年の言葉をどのように受け止めたのだろう。数拍の空隙ののちに、ぽつりと言った。
「やっぱり、君もそう言うんですね」
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