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「あーーー。ま、その時に考えるか」
俺ひとりで浮かれているようで気恥ずかしくなる。
椿は瓶をサイドテーブルに置き、俺の胸にしな垂れかかる。
「椿?」
「借金……は自分で返したいんです」
俯く彼女の表情は、見えない。
「今までも家賃のかからない生活をさせてもらって大変申し訳なく思っているのですが、もう少しで完済できますので、子供に関しましては、その後に相談させてください」
随分と他人行儀な言葉遣いに、ちょっと傷つく。が、ひとまず彼女の考えを尊重したい。
「わかったよ」と、妻の頭を撫でる。
「他には? 結婚生活について言っておくことや、俺に要望はないか?」
フルフルと首を振る。
「先のことでもいいぞ? 一軒家が欲しいとか、犬が欲しいとか」
「……」
「椿?」
「……」
反応がない。
まさか、と彼女の顔を覗き込むと案の定、目を閉じて、規則正しい呼吸を繰り返している。
「マジか……」
シャンパンの瓶を持ち上げてみると、軽かった。
ほとんど椿一人で飲んでしまった。
はぁ、と深いため息をついて、妻の身体ごとベッドに横たわる。
「色々あったしな」
フッと笑みをこぼし、新妻の唇に自分の唇を重ねた。
「これからよろしくな、奥さん」
遊び疲れた子供の様に、俺たちは深い眠りについた。
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