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「月曜の朝一で区役所行って、戸籍謄本と住民票を貰って、警察で免許証の住所変更をして――」と、彪が指を折る。
「――マンションと車と生命保険の名義を変更して、会社にも届なきゃだろ? あ! スマホの名義変更もか?」
「あ、あのぉ……」
「ん? あ、名字のことは言うなよ? 俺がそうしたかったんだ。椿に、『是枝椿になってください』とか言ってみたかったのも確かんだけど、お家騒動みたいなのに巻き込まれたくないからさ」
「けど――」
「――ホントに清々してる」
本当だろうか。
是枝の姓を名乗り続けることで、私にまで迷惑がかかるのではと配慮した結果ではないのだろうか。
だが、届はもう出した。
彪が私の肩にチュッと口づけた。
「指輪はいつ買いに行く?」
「指輪……」
「うん。式を挙げなくても、結婚指輪は買うだろ」
「指輪……」
私は指輪をはめたことがない。
恋人がいなかったからだけでなく、金銭的に余裕がなかったからだけでなく、私自身が装飾品に興味がないから。
自分の指を見つめる。
「指輪……」
「俺とお揃いの指輪、欲しくない?」
彪とお揃いの指輪……。
「欲しい、かも……しれない」
「なんだよ、かも、って」と、彪が笑う。
「楽しそうですね」
「ん?」
昨夜から、彪はいつもとは少し違う、いつもより子供のような、倫太朗のようなテンションのようだ。
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