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ひっく、と肩を震わせて酸素を吸うと、私は彪の首に抱きついた。
ガタン、と椅子が倒れた。
彪は、私を抱き留め、抱きしめてくれた。
「好き――っ!」
「うん、俺も」
「こ、子供っ、たくさん欲し――」
「――うん」
「仕事……続けて――」
「――うん、いいよ」
「指輪……も――」
「――うん、買いに行こうな」
「……ひとりにしないで」
ぎゅうっと、痛いくらい強く抱き締められた。
「椿こそ、俺をひとりにしないでくれよ?」
幸せ慣れしてなくて、面倒臭いと自分でも思う。
だけど、こんな風になんの不安もなく、寄りかかれる誰かが現れるなんても考えたこともなかった。そんな人が私を愛してくれるだなんて。
小さな子供のようにわんわん泣いた。
その間、彪はずっと私の頭を撫でていてくれた。
「大丈夫」「ずっと一緒だ」と何度も言ってくれた。
両親が亡くなったあの日から溜め込んだ涙は、彪のスウェットをぐっしょり濡らすほどだった。
散々泣いたらお腹が鳴った。
彪が笑って、フライドポテトを私の口に押し込んだ。
ポテトはすっかり冷めて、もそもそしていた。
それでも、美味しいと思った。
心の中でずっと、しとしとと降り続いていた雨が止み、陽の光で満たされた気がした。
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