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18.信じる気持ち
「つーばーきー」
「もうっ! ここまで来たんだから、諦めて! ほらっ」
諦め悪く渋り続ける俺の腕を引き、妻がずんずんと病院を突き進んでいく。
器用に編みこまれた髪が、彼女の背中で揺れる。
もう、縄のようなきつい三つ編みじゃない。
年末の病院は、静か。
年内の診療は終わり、入院患者も少なく感じる。
旅行はやめになった。
椿が、そうしたいと言ったから。
自分たちの家でゆっくり過ごそうと言われて想像したのが、クリスマスイヴのエロい下着だなんて、内緒だ。
だが、我が妻はそんな妄想を木っ端微塵に打ち砕いてくれた。
一緒に出掛けようとベッドから引っ張り起こされた俺は、椿の言う通りに車を走らせ、まさかと思いつつ、再び祖母の入院する病院にやって来た。
どうやら、祖母が椿を呼び出したらしい。
もう二度と会うことはないと思っていたのに。
とにかく、俺は足取りが重かった。
が、エレベーターに乗ってしまえば、諦めるしかない。
こうなったら、さっさと用件を聞いて帰ろう。
「こんにちは」
三回のノックの後、椿がドアを開けた。
数日前と同じように、祖母はベッドに座っていた。傍らには、見知らぬ女。
四十くらいだろうか。
長いブラウンの髪は緩くうねっていて、真っ赤な口紅が印象的。
真っ白なロングのコートに、足元は真っ赤な短いブーツ。
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