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「彪……?」
その女が、俺の名を呼んだ。
そして、わかった。
俺の母親――――。
いや、それにしては若すぎないだろうか。
「来ましたね」と、祖母が言った。
そして、表情を変えずに続けた。
「彪。あなたの母親、幸子です」
いや、いきなり過ぎだろ。
「へぇ、いい男になったじゃない」
俺の母親だという女は、あっけらかんと言った。
「あ、恨み言は聞かないわよ。この人への苦情も」と、祖母さんを見る。
「ガミガミうるさくて厳しくてうんざりだったろうけど、私もそうだったし」
ガミガミ……?
厳しかったが、うるさかった記憶はない。
祖母さんが、はあっとため息をつく。
「彪は、あなたのようには育てていませんよ」
「は? なにそれ、ずっる!」
「あなたは五十も過ぎて……。まともな言葉遣いはできないのですか」
「相手があんただと昔に戻んのよ」
五十過ぎ……!?
バケモンかよ。
「あなたには、いずれ婿を取って是枝を継ぐ使命があったから厳しくしましたけれど、彪は違いますからね。同じ轍を踏まぬよう、私なりに考えました。それも、良い考えではなかったようですが」
素直に聞けば、厳しく育てた俺の母親で失敗したから、孫の俺は無関心で育てたということだろうか。
いや、なんか釈然としないけど。
「はっ! あれだけ偉そうに自分が育てるって啖呵きっておきながら、情けな!」
「え……?」
祖母さんが俺を育てると言った……?
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