18.信じる気持ち

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「幸子さんが育児放棄したんじゃないですか?」  聞いたのは、椿。  オブラートも何もない、単刀直入。 「彪を置いて遊びに行ったりしてたのはホントだけど、結婚する時に一緒に連れて行こうとしたら、この人がダメだって言ったのよ」 「お祖母様が……望んで彪さんを引き取ったんですか?」 「ま、最終的には、嫁ぎ先からも子供を置いて来るように言われたから、同じことだけど」  当の子供を目の前に、なんて言い草か。  コホン、と祖母さんが咳払いをした。 「私が死んだら、あなたたちが顔を合わせることは二度とないでしょう。私も、心残りがあっては穏やかに逝けませんからね」  それにしたって、なんて身勝手な。 「そ。じゃ、顔合わせも済んだし、もういいでしょ」  母親はそう言うと、ふんっと祖母さんから視線を逸らし、カツカツとヒールを鳴らして俺に向かって来た。  ドアが俺の背後にあるのだから仕方がないが、それでも、緊張が走る。  母親は俺の横で立ち止まると、俺を見た。 「ね、彪。なんか喋ってみて」 「は?」 「何でもいいから」 「何でもって――」 「――幸子、って呼んでみて」 「……幸子」  素直に呼んでしまったのは、あくまでも動揺してのことだ。  母親の唇が少しだけ開いた。  ひゅっと驚いて息を吸い込んだように見えた。 「もう一回」 「幸子」 「ははっ。声、あの男とおんなじだ」 「は?」  母親は笑い、俺から目を逸らす。  横顔が僅かに歪む。  泣きそうに見えたのは、俺の気のせいだろう。
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