18.信じる気持ち

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「結婚とか家庭とか、全然興味なかったけど、椿とはずっと一緒にいたいって思った」 「ふ~……ん」  母親の声が揺れた気がした。 「恨むほどあんたのことを考えたこともなかったけど、今は感謝してる」 「……」 「俺を産んでくれてありがとう」 「…………」  なおも、振り返らない。  だから、俺も背を向けた。 「それだけ」 「同じ声の男に会ったら、父親だと思っていいよ」 「はあ?」  振り返ると、母親もこちらを向いていた。 「あと、あんたの名前、父親の名前から取った」 「……あ、そ」 「昔はすっごいいい男だったけど、今はデブでハゲかもね」 「は?」  母親は笑って、背を向けた。  コツコツとヒールを鳴らし、足早に遠ざかって行く。  笑顔だけど、泣いているように見えた。  気のせいだったかもしれない。  病室に戻ると、ベッドの傍らに椿が立っていた。 「幸子は?」 「帰った」 「そう」 「五十過ぎに見えなかったけど」 「そうね。あんなに厳しく育てたのに、全く身になっていなかったとは嘆かわしい」 「いや、見た目……」 「すっごい綺麗な女性(かた)でしたね!」  椿がテンション高めに言った。  どことなく室内の雰囲気が変わり、同時にどっと疲れが出た。  病院に着いてから三十分やそこらしか経っていないのに、ものすごく神経をすり減らした気がする。  コンコン、とドアがノックされ、部屋の主が「どうぞ」と返事をした。  入って来たのはそれこそ五十歳前後くらいの看護師で、カートを押していた。
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