18.信じる気持ち

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「ちゃんと、愛されてたね」 「そんなこと――」  全力で否定したいのに、言葉が続かない。  あんな育てられ方をして、愛されていたなんて思えない。思えるはずがない。  なのに、嬉しいと感じた自分がいた。  母親を見た瞬間、母親だとわかった。  父親に声が似ていると言われた。  結婚する時、母親は俺を連れて行こうとした。  俺の名前は、父親の名前から取ったものだった。  母親は父親を好きだったと言った。  祖母さんが、俺を引き取ると言った。  俺は愛されて生まれてきた。  押し付けられたのではなく、祖母さんの意思で俺を手元に置いていた。 「偉かったね、彪」 「……っ」 「恨み言、言わなかった」 「…………っ」 「お祖母様、嬉しかったろうね」  ハンドルにかけた手で、くしゃりと前髪を掴んだ。  そのまま、ハンドルにもたれ掛かるように顔を伏せた。  見られたくなかった。  格好悪い自分を、見られたくなかった。  歯を食いしばり、ゆっくり深呼吸をする。  そっと頭に重みを感じた。 「彪は、すごいね」  妻の細い指が俺の髪を撫でる。  ゆっくりと、優しく、何度も。  初めてだった。  人に、こんな風に頭を撫でられたのは。  テストでどんなにいい点数を取っても、生徒会に入って頑張っても、褒めてもらったことなどない。  頑張ったねと頭を撫でられたことも、偉かったねと抱き締められたことも。  だから、だ。  初めての経験で戸惑っているだけだ。
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