18.信じる気持ち

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 そうでなければ、頭を撫でられたくらいで泣いたりしない。  男のくせに、そんなことで泣いたりしない。  好きな女の前で、泣いたりしない。 「くそ――っ」  止まらない涙に悪態をついたところで、どうなることもない。  俺はじっと目を閉じ、深呼吸をして、顔を上げた。  ずずっと鼻をすすり、手の甲で涙を拭う。 「格好わる」 「全然! 彪は格好いいです」  椿の真剣な表情に、初めて言葉を交わした夜を思い出した。  真剣に手を合わせ、三つの願いを口にした椿を。 『是枝部長のように仕事に邁進できますように!』 『是枝部長のように大成できますように!!』 『是枝部長のような男性とご縁がありますように!!!』 「椿の三つの願い、叶ったな」 「え?」 「仕事に邁進して、大成して、俺と縁を繋いだ」  思い出したのか、彼女がふふっと笑った。  ホント、もう、堪らない。  俺は身を乗り出し、椿の後頭部をしっかり掴んで引き寄せた。  互いのシートベルトのロックがかかる。  それでも、首を伸ばして、唇を重ねた。  さすがに誰に見られているかわからない車内では、触れ合わせるだけにとどまった。  唇こそ離したが、離れがたくて、おでこ同士をくっつけて見つめ合う。 「あの時から、惚れてたんだな」 「え?」 「あの夜から、椿を好きになった」 「嘘……」 「椿が拝んだ相手が俺で、良かった」  椿がふふっと笑う。 「あの夜、チョコレート付きの社外秘資料を見つけられて、良かった」  悔しいが、基山に感謝だなと思った。
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