18.信じる気持ち

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「そういや、今更だけど、椿の祖母ちゃんが亡くなったのって椿の誕生日なんだろ? なら、あの写真はいつ撮ったんだ?」  彪が聞いた。  写真を見ただけならば、成人式のものだと思うだろう。 「あれは、祖母が亡くなる三か月くらい前の写真なんです。家を取り壊す前、祖母が外泊できた時に」 「そ。で、その時に頼まれたんだ。この着物だけは椿ちゃんの手元に残してやりたいけど、アパート暮らしじゃ邪魔だろうから、俺に持っていてほしいって。それから、成人式には着れなくても、椿ちゃんが結婚する時には持たせて欲しいって」  本当に、どうして忘れていたのだろう。  あの写真を撮った一週間後、私はアパートに引っ越し、家は取り壊された。  引っ越しの荷物の中に着物がなかったことに、全く気がつかなかった。  違う――! 「レンタルって言ってなかった!?」  そうだ。  お祖母ちゃんは、一緒に写真が撮りたいからと、外泊に合わせて着物をレンタルしたと言っていた。  だから、写真を撮った後で返したものとばかり思っていたのだ。 「借金で家を手放さなきゃいけない時に、着物を買ったって言えなかったみたい。本当は、お祖父ちゃんが亡くなる少し前に買ってたんだって」 「そんな……」  お祖母ちゃんが亡くなって、仕事に追われ、成人式どころではなかった。    中学三年で転校した私は、成人式で会いたい友達もいなかった。  倫太朗に、成人式に行かないのかと聞かれたことがあったけれど、即答で「行かない」と言ったことは憶えている。
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