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私は、碧い着物にそっと触れた。
「この振袖を着てお嫁に行く椿ちゃんを見たかったって、泣いてたよ」
知らなかった。
お祖母ちゃんが、私の為に着物を買ってくれていたなんて。
お祖母ちゃんが、私が結婚する日を楽しみにしてくれていたなんて。
「広げてみてもいいか」
彪が、着物に触れる私の手を握った。
私は着物から手を離し、彪が重なり合う布地を広げた。そして、呟く。
「椿の瞳の色だな」
「え……?」
「ん? だろ?」
私の瞳……こんな色なの……?
着物は、全体的には青地で赤や桃色の牡丹や椿の花が描かれており、袖の袂と裾に向かって緑にグラデーションされている。
ただ、単純な青や緑とは違い、青とも緑とも見える、言うなれば南国の海のような色。
私はこの瞳の色が嫌いだった。
子供の頃は他の子たちよりほんの少しだけ明るいブラウンだった。
それが、成長するにつれて青味がかってきた。
それを隠したくて、眼鏡をするようになった。ほんの少しだけ色の入ったレンズで、瞳を隠した。
その頃から、自分の瞳をマジマジとは見ていない。
「お金に余裕がない中で、瞳と同じ色の着物を買って着せようだなんて、するか? 愛してもいない孫のために」
それは、私がお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに愛されていたってこと……?
『気味の悪いその目で見るな』
『孫でも何でもない他人のために、どうして私たちが犠牲にならなきゃいけないんだ』
そう言ったのに?
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