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「なぁ、椿」
呼ばれて、ゆっくりと首を回した。
彪が、穏やかに微笑む。
「本当のところ、椿と祖父ちゃん祖母ちゃんとの血縁関係についてはわからない。だから、最初は亡くなる前に祖母ちゃんが言ったみたいに、椿を疎ましく思っていたかもしれない。でも、一緒に暮らしていくうちに、変わったかもしれない」
「かわ……った?」
彪が、両手で私の眼鏡を外す。
眼鏡をテーブルに置き、真っ直ぐに私の瞳を覗き込む。
私は、じっとしていた。
「そう。最初は気味が悪いと思っていたこの瞳を、綺麗だと思うようになったかもしれない」
初めて会った時、お祖父ちゃんは私に微笑んでくれたけれど、お祖母ちゃんは無表情だった。
だから、お祖母ちゃんを怖いと思った。
一緒に暮らして、家事全般や礼儀を指導された。
倫太朗には優しく微笑むのに、なぜ私にはそうしてもらえないんだろうと思った。
けれど、いくら孫でも両親が亡くなるまで会ったこともなくて、いきなり孫だ、同居だなんて言われても戸惑うのはお互い様だと飲み込んだ。
一年も過ぎた頃には、お祖母ちゃんの厳しさにも慣れたし、それなりに優しい言葉をかけてもらえるようにもなったから、それで良かった。
お祖父ちゃんに『祖母ちゃんが厳しいのは、遺された椿が困らないようにと思ってだからな』と言われたこともあった。
忘れかけていた、思い出そうとしなかった、祖父母と暮らした日々が、脳裏に浮かぶ。
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