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お祖父ちゃんが亡くなって、お祖母ちゃんが病気になって、私は過去を振り返る余裕もなく生きてきた。
お葬式で聞いた親族の心無い言葉や、亡くなる前のお祖母ちゃんの言葉だけが、消えない傷として残った。
けれど、確かに幸せな時間はあった。
どうして疑ってしまったんだろう。
血の繋がりなんかなくても、一緒に過ごした時間は、確かに幸せだったのに。
「なぁ、倫太朗」
「はい?」
「椿は愛されていたと思うか?」
「はい」
「俺もそう思うし、そう信じたい。椿は?」
「え?」
「椿はどう思う? なにを信じたい?」
「信じ……たい?」
「ああ。事実は大切だ。だけど、確かめようがないなら、信じたいものを信じたらいい」
信じたいもの……。
「亡くなる前の祖母ちゃんの言葉が本心だと思うのなら、それもいい。けど、この着物を買って、倫太朗に預けた祖母ちゃんの気持ちが椿への愛情だと感じるのなら、そう信じたらいい」
「信じ……る」
私は何を信じたい……?
「椿ちゃん」
倫太朗を、見る。
彼は、なぜか目に涙を溜めていた。
「倫太朗?」
「俺は椿ちゃんが羨ましかったよ」
「……?」
「じーちゃんとばーちゃんが椿ちゃんのことを『うちの孫が』って話すの聞くと、羨ましかった。俺の方が椿ちゃんより長く二人のそばにいるのに、どうやったって実の孫には敵わないって思ったから」
「りんたろ……」
「二人が近所の人に椿ちゃんを自慢してたの、知ってた?」
「え?」
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