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「お祖母ちゃんの葬式の後で言ったよ?」
「そう……だっけ?」
「そうだよ! だから、お祖母ちゃんの言ったことは気にするなって言ったのに。ま、冷静に俺の話を聞けるような状況じゃなかったか」
「そう思ったんなら、改めて言えば良かったろ」と、彪がティッシュの箱を倫太朗に差し出す。
倫太朗は二、三枚のティッシュを取り出すと「えー、俺のせい?」と口を尖らせながら顔を拭いた。
私もティッシュを抜こうとすると、濡れたタオルを渡された。
いつの間に取りに立っていたのか。
「え? なんで椿ちゃんにはタオルで、俺はティッシュ?」
「ティッシュで擦ったら、椿の肌が荒れるだろ」と言って、彪がタオルを持つ私の手ごと掴んで、顔を拭く。
温かい。
「ちぇっ。俺、これでもモデルなんだけど?」
「自己管理しろ」
「折角、着物渡しに来たのに!」
「うん。ありがとう、倫太朗」
目にタオルを当てたままで、言った。
「これで、心置きなく東京に行けるよ」
「え?」
タオルを外すと、倫太朗が立ち上がって伸びをしていた。
「生活を東京に移すよ。あ、仕事では来るだろうから、マンションはそのままにしとくけど」
「どうして?」
「麗さんに逃げられないように」
「京谷さん!? 付き合ってるの?」
倫太朗にしては珍しく懐いているとは思ったけれど、本気だとは少し意外だ。
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