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「そうです。すっごく仲が良くて、私――っ」
喧嘩している二人を、見たことがなかった。
いじけたりはしても、お互いに責め合い、罵り合うような喧嘩は、見たことがない。
大人になって思えば、そんなに仲が良いままでいられるものかと不思議に思うが、それくらい仲が良かった。
名前も知らない親戚の話など、私の瞳の色など、なんて些末な問題だったのだろう。
大切なことは、ずっと思い出の中にあったのに。
「じゃあ、俺たちの娘には、姫の字をつけてやろうか」
「……っ?」
「んで、俺はその子をお姫様の如く溺愛するよ」
彪が娘を溺愛……。
想像してみる。
小さな女の子にメロメロの彪。
なぜか、しっくりこない。
私の知る限り、彪はいつも冷静で、余裕があって、強気。
目尻を下げて子供に頬擦りする姿は、彼らしくない。
「ちょっと、想像できないですね」
「え? そう?」
「はい」
「そうかなぁ」
「はい。彪は、なんていうか、娘の方がパパ大好きって感じが似合うというか」
「え、なにそれ」
想像してみる。
小さな女の子が彪に抱っこをせがみ、彼は仕方なさそうに、けれど優しく抱き上げる。そして、女の子は嬉しそうにパパに頬擦りをする。
うん、こっちだ。
「前々から思ってたけど、椿の中で俺ってかなり過大評価っていうか、美化されてるよね?」
「そうですか?」
「けどさ、俺、椿の前ではかなり格好悪い所ばっか見せてると思うんだけど」
「いえ! それはありません」
思わずカッと目を見開き、彪に詰め寄る。
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