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好きだから、は理由にならないよな……。
いい加減に疲れてきた俺は、切り札を出すことにした。
「失礼を承知で言うが、柳田さんは予定外の引っ越しをする金銭的余裕があるのか? そんなことに使うなら、借金返済に充てたいのではないか?」
「……っ! それは……そうですが、仕方がないことなので――」
「――この部屋で暮らすのなら、家賃も光熱費もいらない」
「え?」
足元を見るやり方は男らしくない。が、柳田さんに俗に言う『普通の女』に対する扱いは通用しない。
ここまできたら、押し通すほかない。
「代わりに、食事の支度をしてくれたらいい。俺は、毎日きみのおにぎりが食べたい」
「おに……ぎり……ですか?」
「そうだ。きみは俺とルームシェアをし、家賃と光熱費の代わりに食事を用意し、俺の部下として経営戦略企画部で働く。俺は美味い飯が食え、仕事が捗る。ウィンウィンの取引だ」
「取引……」
俺はわざと横柄に見えるよう、仁王立ちで腕を組み、柳田さんを見下ろした。
「そうだ。恋人でも夫でもない男と一緒に暮らすのは不本意だろうが、きみはそれを我慢さえすれば、金銭的に余裕ができる。俺は食生活が改善される。良いこと尽くしだろう」
ハッタリはお手の物だ。
伊達に営業畑で扱かれてきたわけじゃない。経営戦略企画部にしても、そうだ。
企画そのものもさることながら、いかにその企画が素晴らしいかを認めさせるには、八割はハッタリでごり押しする。
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