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「昨日クレーア様が惨敗したから、夜に慰労会したじゃないですか。敗因が色ボケてたせい、というのは内緒にしときますけど」
「惨敗ではない。次に会う口実が――」
「ちょっと黙っててくれます?」
部下から冷たい扱いを受けると、クレーアは口をへの字に下げた。
「泥酔した貴女を、まあ、いつものように介抱してたんですけど……その時、貴女にキスされて――」
「待て。誰の話をしている?」
「貴女と俺ですよ。もう少しだけ黙ってください」
アーマイゼは強めの口調で、クレーアの発言を諌めた。一呼吸置いてからクレーアの目を見つめる。彼女の目元は強張っていた。
「クレーア様があのヒーローの事で頭がいっぱいなのは理解しました。だから、昨日のキスが事故だったのもわかります。でも俺は……あの事を水に流したくないんです。何故だかわかりますか?」
話している間、アーマイゼの視線がクレーアの目から逸れることは無かった。アーマイゼが口をつぐみ、少しの間、お互い何も話さないまま見つめ合う。
やがて、クレーアの口がゆっくりと動いた。
「……黙れと言ったり質問してきたり、偉そうな態度を取るようになったな」
懐かしむような口ぶりで、微笑を浮かべる。
「貴様が言いたい事など、手に取るように分かる。ワタクシはバカではない」
クレーアはアーマイゼの左肩に、ポンと手を置いた。
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