いつか勝利の美酒を

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「ワタクシの粗相(そそう)を交渉材料にする気だな? いいだろう。貴様の職務怠慢、今回は目を(つぶ)ってやる」 「思った通りのバカ上司ですね」 「なっ……貴様! いい加減に――」 「俺、貴女のことが好きなんですよ」  クレーアの口が止まった。怒りの表情が抜け落ち、呆気にとられている。  アーマイゼは、自分の肩に置かれた手に右手を重ね、やんわりと握りしめた。クレーアの手を肩から下ろすと、左手も添えて、両手で彼女の手を包む。 「俺じゃダメですか?」  クレーアは手元に視線を落とした。自分の手を包んでいる両手が、指先が、熱く脈打っている。その感覚が、包まれた手から全身に伝い、徐々に鼓動が速くなっていく。  そろりと視線を上に移動させると、アーマイゼと目が合った。グレーの瞳が、真っ直ぐ自分を見ている。クレーアは思わず視線を逸らした。 「マスター、とびっきり強い酒を頼む」  クレーアは隣を一度も見ず、カウンターに向き直る。しかし、アーマイゼの両手は振り払わないままだった。 「アーマイゼ。貴様は信頼の置ける部下だ。そういった意味では気に入っている。しかし……」 「わかってます。でも、少しだけ考えてもらえませんか?」 「…………返事は少し待ってほしい。構わないか?」 「ええ、もちろんです」  アーマイゼは淡々とした声で応対し、クレーアの手を離した。 「考えてもらえるだけでも嬉しいです。俺はどんな返事でも受け入れますから」  アーマイゼは、クレーアの横顔を見ながら微笑んだ。クレーアは注文した酒を飲み、頬を紅く染めている。  飲みの席で告白した後は、返事を先延ばしにされ、強い酒を飲んで泥酔した挙句、彼女の記憶から自分の告白が無かったことにされる。  常例化しつつあるこの流れを断ち切れないもどかしさに、アーマイゼはため息をついた。
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