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水子…
「娘さんに憑いているのは水子の霊です。どうぞ、娘さんに聞いてみてください。」
私がそう言うと、周りの人はザワザワとし、娘さんの方を見た。
「ええ、ええそうです!あ、赤ちゃんの泣き声が…アア、毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩!!!」
娘さんは錯乱し、お母さんが抱きしめ、宥めた。
「これは、精神的にも参ってますね。」
美濃山が言った。
嗚呼、そうらしい。顔を青くし、ガタガタと大きく震えている。
「ん?!東氏ではなく、電話の主の発言の方が正しいということが分かりました!」
「な、なッ!」
リポーターの一人がそう言い、自称霊能力者、名は東か。其奴は固まり、頬を引き攣らせていた。
ふん、当然の結果だ。
「…お母さん、私は警視庁特殊事件部の者です。そこの自称霊能者…詐欺師ではなく、私達に依頼していただければ、直ぐに其方に向かいます。」
「なっ、こ、こんな奴信じてはいけません!先ず、そんな部などありはしない!奥さん、こんな、こんな得体の知れない奴を信じてはいけません!」
「霊視も真面に出来ん奴が何言ってんだ阿呆。」
「あぁああ、葉隠さん、口調が悪くなってますよ〜!」
そんな美濃山と泉野の言葉を無視し、続ける。
「まァ、別にそこの詐欺師信じるならお好きにどうぞ。言っておきますが、近い内に彼女……娘さん、死にますよ。」
私の言葉に、現場は凍り付いた。
お母さんも、パクパクと口を動かす。
「そ、そな…!」
「葉隠さん、それ、本当ですか?」
「嘘など着いて何になる?まァ、早くて今日、遅くても明日には死ぬな。」
私達の会話は向こうには聞こえていなかったらしい。だが、まァ、事実なのだ。
「もう一度言いますが、水子の霊と見破ったのは、私です。そこの野郎じゃあない。」
静かにそう言い、暫し沈黙が走る。
そして、お母さんは言った。
「む、嗚呼、娘を!娘を助けて、下さい!お願いです!」
「…ええ分かりました。依頼料なんですけど、まァ、そこの野郎と同じ額でお願いします。」
「嗚呼、葉隠さん、口調が口調が…」
「まァ、それ程ペテン師に怒ってるって訳だ。」
何やら後ろで社員達がコソコソ言っているが、まぁいい。
依頼は成立だ。
「成立しましたね、直ぐに其方へ向かいますので、嗚呼、十分ほどです、お待ち下さい。」
そう言い、私は電話を切ろうとする、が、もう一つ大切な事を思い出し、告げる。
「テレビ局の方たちはお引き取り願いたい。…特に女性軍、別に残っていても大丈夫です。まァ、何があっても知りませんけど。」
そう、私が守るのは御家族だけだ。唯の興味本位、テレビのため、なんて理由で来ている奴を守ろうなんて思わないし、守って欲しいなら金払えや。
電話を切り、受話器を下ろした。
「さて、と。何話してたかは知らないけど、現場に行くよ。えぇと、泉野と、男性社員三人ほど、来て貰えるか?」
「はい!」
「ま、待ってください!私は?私は?!」
美濃山が声を上げ、そう言った。
疑問が残るのは当然のことだ。
「…済まない、だが今回は女性に最も危険な例なんだ。水子…頭の良い美濃山には分かるだろう。」
そう言うと、暫し考えた様な素振りを見せ、顔を青くする。
「ま、真逆、その、あ、娘さんは…」
「…」
無言でコートを羽織り、行ってきますと一声かけて、出ていった。
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