望み

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 翌朝、目が覚めると犬には望んだ通り、金の口枷がしっかりとついていた。  となりで狩人が気持ちよさそうに眠っているのを確認すると犬は静かに歩き出す。  鳥が飛んでいて、木々が揺れていた、蝶が躍っていた。  この世が美しいものだと気づく一方で犬はなんだかその景色に少しの物足りなさを感じる。    そうだ、狩人がいない。  きっと犬にとってはどんな絶景でも彼の隣で見るいつもの森が一番美しい。  そう思いながらしばらく歩いて目的の場所についた犬はゆっくりと足を止める。  あの大樹が昔生きていた場所、初めて狩人と出会った場所。  満足だった、幸せだった。  そこから犬は何日も離れなかった。その間、口枷はもちろん外れない。  今はもうない大樹が静かに揺れたような気がした。  犬が姿を消したことに気がついた狩人は街の人も巻き込んで必死に探した。    そんな彼が冷たくなった犬を見つけたのはそれから五日後のことだった。  犬は口枷をしたまま死んでいた。  食べ物や水が喉を通らなかったという賊と同じ苦しみを味わうために絶対に外れない口枷を求めたのだ。  もっといつくしんでやればよかった、頭を撫でてやればよかった、狩人はそんな強い後悔に襲われた。  そして彼はただ静かに涙を流す。  どうして何もしてやれなかったのだろう、と自分を責め四六時中泣いた。  そんな時、いつも黙って隣に寄り添ってくれた犬はもういなかった。  その様子を見ていた森の神は悲しそうに目を伏せる。  実のところもともとは大勢の動物を苦しめた罰を与えるつもりで夢へ姿を見せたのだ。  試すつもりで「何が欲しいか?」と問うと犬は薬でも死でもなく口枷を求めた。  死、と答えれば魂を奪って地獄へ送るつもりだった。  万病を治す薬などもってのほか。命を奪っておいてそんなことは許されない。  しかし犬は口枷を、苦しみを選んだ。  もう十分、罪を償ったのではないか。  そう思った神は犬の亡骸についていた口枷を外してやった。 「ほら狩人よ。  撫でてやれ、それがヤツの真の望みだ」  森の神は狩人にそう語りかけた。
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