やがて日常になる朝(あした)

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なんか、すごく幸せな夢をみた。 彼と一緒に帰って、ゲームしてご飯食べて、同じベッドで一緒に眠った。そんな夢。 今もまだ夢なのかな。 腕の中には焦がれた黒髪があって、呼吸する度に揺れる愛しい肩がある。 ………。 そっか、まだ夢か。 やがて黒髪がもぞもぞと動いて、腕の中から顔を出した。見慣れた顔。大好きな顔。 俺のタカラバコの中に何枚もある、俺の一番見ていたい顔。 その顔が寝癖をつけたまま、じいっと俺を見てる。あまりにじいっと見ているもんだから手が勝手に動いて、その頬に滑り込んだ。 ピクリと揺れる、その体温。 親指で肌の感触を確かめる。 やけにリアルな夢だなぁ。 唇が、何か動いてる。声も聞こえる、気がする。 何か言ってるのか。なんて? 聞きたい。俺はふっとその唇に近づいた。 その声をよく聞こうと思ったから…なのかなぁ。 ふにっと柔らかい。 あぁ知ってる、この感触も。本当によくできた夢だ。 何回かその唇を食んで舐めて、緩く開いたすき間に舌を差し込んだ。温度も感触も、やっぱりやけにリアルだ。 「ん…」 「ん、んぅ…は…」 合間に漏れる熱い吐息すら生々しい。 まるでホンモノみたい。 ホンモノの彼がそこにいるみたい。 と思っていたら何だか俺の肩を掴む手に力が込められた。ちょっと痛い。 …痛い?痛い、のか。 不思議に思って顔を離すと、真っ赤に染まった澤くんの顔があった。唇から伸びた糸がもったいなくて、もう一度だけキスをする。 今度こそその真っ赤な顔を覗き込むと、涙目になっている。ヤバい。すきだ。 もう一回…と思って顔を近づけたら、額に鋭い痛みが走った。いてっ。ん?なんか…やっぱり痛い。ということは。 「こ、この変態っ!おま、朝っぱらから…!」 「………いたた」 「お前が悪い」 「…さわくん?」 「んだよ」 「んっふふふ、おはよう」 「うっ…!………はよ」 ちょっと息が切れてる。たぶん俺のせい。 デコピンした指、痛くないかな。 変態っていつもみたいに罵られても、抱き寄せてるまんまの腕は離せそうになかった。 あぁ、夢じゃない。夢じゃなかった。 ズボンに手を突っ込まなくて良かった。あっぶね。 しかし何て最高の朝だろう。 起きたら彼が居て、一番にその声で「おはよう」って言ってくれて。いやまぁ、第一声は「この変態」だったけど。 デコピンした癖に、抱き締めるのには抵抗してこなかった。ホント馬鹿。相変わらず馬鹿なのに、そこがまたかわいくて堪んない。 おれにだけにしてね。 おれ以外に見せないでね。 ぎゅってしたら、今度はぎゅってして…くれなかった。代わりに大きな溜め息を吐かれる。 「お前は寝てたらキレイなのに…」 「キレイだった?」 「起きたら変態だったから台無し」 「ふっふふふ、そう?」 「…へんたい、ばか」 「ばか、ね。ふふふっ」 「………今日は、ちゃんと眠れた?」 「…うん。うん、だいじょうぶ」 やっぱり起きてもきみはきみなんだなぁ。 こんなことされても俺のこと心配してくれる。 まぁ正直、最初の方はこんな状況で寝られるかって思ってたけど。 まさかこんなにも安眠できるとは自分でもびっくりだよ。 寝る前にもきみがいて、起きてもまたきみがいて。 そんな生活が出来ればどれだけ幸せだろう。 ダメだ、少し与えられただけで。 俺って奴は…もっともっとと望んでしまう。 もっと欲しい。 もっとちょうだい。 ぜんぶちょうだい。 重い感情を乗せてもう一回ぎゅってしたら、今度こそぎゅってしてくれた。やっぱり馬鹿じゃん。 して欲しいとは思ってたけど、この子どこまでも馬鹿だわ。どうしましょう。 「何か今馬鹿にされた気がした」 「やだ、分かっちゃった?」 「殴る」 「お好きにどーぞ、ほら、どこでも」 「ひぇっ…何か逆にこわ」 「さわくんになら、いいのになぁ」 「やっぱり変態じゃん」 「そ。だから、毎晩一緒に寝てくれる?」 「やだ」 「超即答。ウケるー」 「お前と寝たら何されるか分かんないって学んだ」 「本当かなぁ。澤くんは、ちゃんと眠れた?」 「うん。………うん」 え、なにその間。ちょっと気になるんですが。 「澤くん?」 「なに。というかそろそろ離して」 「やだ。くまさんできてないかチェックしよ」 「できてないよ、寝れたもん」 「うん、ホントだ。なら良かった」 良かった。俺のせいで澤くんを寝不足にさせるとか許せないからなぁ。 でも澤くんも俺みたいに、ちょっとは意識してくれてたとかだったらいいのに…と、やっぱり思わなくもない。 くまさんはできてなかったから、真相は本人のみぞ知るってことか。 「なぁ藤倉」 「なぁんでしょ」 「いい加減離して」 「やだ」 「駄々っ子か」 「うん」 あぁ、最高の朝だ。 というか、ほぼお昼になっていた休日の午前。 これが日常になればいいのにと切に願う。 それにしても、澤くんは一体いつから起きてたんだろう。 聞いてみても「大体お前と一緒」って答えられたけど、あれは本当かなぁ。
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