やがて日常になる朝(あした)

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やがて日常になる朝(あした)

柔らかな風が吹いて、すぐ隣にある匂いを鼻の先まで連れてきた。それがきっかけかな。 くぁっと大きなあくびが出そうになって、何とかそれを噛み殺した。 今のは流石にバレないと思ったのになぁ。 それなのに、やっぱり彼は俺のそんな仕草にも気づいて、心配そうな表情をこちらに向けてくる。誰にでもなのかなぁ。誰にでも、なんだよなぁ…。 そんな小さい小さい嫉妬すらあくびと一緒に消してしまえたらいいのになんて思いながら、俺を見上げる黒い瞳に向き合った。 「藤倉、ねむいのか?」 「いや、まぁ…ちょびっとね」 「寝不足?」 「うーん、そんな感じ」 そんな感じ。多分。 今でも周期的に眠れない夜がくることを、言ったらきみは心配してくれるだろうか。 するんだろうな。 だから絶対言ってやんない。 俺のことばかり考えてて欲しいなとは思うけど、そういうことじゃない。 余計なことに思考を割かなくたっていいんだ。 …余計なこと、なんて言ったらまた頭突きを喰らうかな。それも悪くな…いやいや。 「なぁやっぱり、今日お前、変。いつも変だけど」 「やだなぁ、いつもカッコいいの間違いでしょ?」 「今日遊ぶのやめとこうか?ゲームなんていつでも出来るし…」 「やだ。あそぶ」 「小学生か」 俺の言葉なんて軽くスルーして最悪な提案をしてくる澤くんはホントズルいと思う。 そんなの、折角きみが俺ん家に来てくれるっていう素晴らしい予定を俺の寝不足なんかで台無しにできるワケがない。 やっとここまで来たんだから。 「じゃあ今日ゲーム持ってくけど」 「うん!」 「そ、そんなに楽しみか…?」 「当たり前」 即答した俺を澤くんが怪訝な顔で見てくる…。 うわぁ写真撮りたい。触りたい。 思わず頬が緩むと、いつものヘラヘラ顔だと呆れられた。可愛い。かわいい。カッコいい。 俺も澤くん家までついていきたいと思いながらそこまで言い出すことはできずに、彼が降りる駅に到着してしまった。 そして一度駅で別れてから、彼は予定通りゲームを持って俺の家まで来てくれた。 こうして放課後も一緒に居られることが増えたのは純粋に嬉しい。…嬉しいんだけどね。
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