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執事は乗り込むことにしました
皆さま、ご機嫌いかがでしょうか?セバスチャンでございます。
え、私?私の機嫌は最悪ですが、なにか?
あれからアイリ様のご様子は益々酷くなりました。まず、あんなに可愛がっていたナイトを見た反応ですが……
バレッタの姿で動く。→「いやっ、怖い!」
コウモリの姿に戻る。→「やだっ、気持ち悪い!」
ちなみに人魚を呼び出してみたら見た瞬間気絶なされてしいましたよ。
ナイトと人魚の落ち込みようときたらそれはそれは憐れなほどだったのですが、私にいたっては「執事なんかいらない!どっかいって!」と解雇されてしまいました。
近寄ることも許されないので仕方なくアイリ様の事をルチア様にお任せしたのですが、なんとルチア様のことまで拒絶する始末です。
いつものアイリ様ならルチア様の胸に飛び込んで「ぽよんぽよん天国だーっ」とアホな顔でアホな事を叫んでいらしたのに……。
人が近づくことを嫌がり部屋の片隅でずっと「吸血鬼が……呪いが……」と怯えておられます。
しょうがないのでお暇を頂くことにしました。森に里帰りしても良かったのですが、ナイトや人魚とある意見が一致いたしましたのでまずはそちらを済ませようと思います。
え?なにをするかって?……そんなこと決まっているではないですか。
アイリ様があんなことになってしまった大元の原因はなんだと思いますか?
そう、大国に行けと言ったあの犬です。
別にアイリ様に拒絶されて機嫌が悪いから、犬に八つ当たりしに行く……訳ではないですよ?ただ、このイライラした感じがどうにも落ち着かないのでちょっと話し合いに行くだけです。
アイリ様の執事として、人間のルールを守って。
あぁ、でも……もう執事は解雇されてしまいましたし、今から行く場所には人狼と戦争しに攻め込んできている竜人しかいないのでしたね。
アイリ様が滅ぼしてはいけないとおっしゃっていたから手を出しませんでしたが……
もう、いっそ滅ぼしますか?
「もう、ほんとに勘弁してください」
気を失って山積みになった竜人達の上に座って足を組んでいる私にニコラスが土下座してきました。
その後頭部には敵意剥き出しのナイトがかじりついています。私がニコラスと話し合いをすると言っておいたので丸飲みはしていません。ナイトはとても賢いコウモリなのです。
『どうしたんだ、人狼の王子よ?いつものように陰険執事だ腹黒執事だと、俺様を愚弄すればよいだろう』
私の瞳は紅く光り、上がった口角からは牙が覗いています。その背に大きなコウモリの羽を出してばさりと動かしました。
私は今、吸血鬼の姿に戻っています。最初はちゃんと執事の姿だったのですよ?
途中までは本気で全滅させてやろうかと思っていたのですが、ナイトが「アイリが元に戻った時に知られたら怒られるから」と言うので滅ぼすのは止めました。
まぁ、竜人どもは両手足の骨を折って身動き取れなくしてから気絶させましたが、元々がんじょうなのでこれくらい大丈夫でしょう。
それに半分くらいは人魚が海に引きずり込んで行きましたし。「竜人って硬いのよねぇ……」と呟いていましたが、どうやら人魚もアイリ様に拒絶されてムシャクシャするので竜人で鬱憤を晴らすようです。
また海が赤く染まりますが、まだ半分生きてるので滅ぼしてません。
しかし竜人を殲滅した所で人狼の王族どもが出てきて私の事を見るなり騒ぎだしたのでアイリ様の(元)執事だと告げたら「あの娘の執事か。あの娘を我が国に嫁がせたければ我らのために働け」などと言ってきたのです。
思わず本性が出ました。普段は絶対使わない能力を使ってしまいましたよ。
これでもその気になれば色々できるんですよ?いつもはめんどくさいのでやりませんけど。
人間にも魔物にもほとんど興味が無かったから森で静かに暮らしていたのです。でも唯一興味を持ったアイリ様を「あの娘」呼ばわりされて、さらには嫁がせたければ?いつ、嫁ぎたいなどと言いました?
あぁ、やはり人狼族は滅ぼしてしまいましょうか……。
「こっちの無礼はほんとに申し訳ない!俺がちゃんと言い聞かせるから、これ以上はどうか!」
壁に半分めり込んでいる王族達を横目で見ながらニコラスが額を床にぶつけました。
え?みんな生きてますよ?かろうじてですが。駄犬の一族はみんな頑丈ですねぇ。
『人狼の王子よ。俺様は今まで人間の世界のルールを守ろうと努力してきたんだ。
でも俺様だって万能ではない。解決の糸口がわからない問題が起きればやる気だってなくなることがある。……人間らしくしようとしてどうにもならないのなら、魔物として一瞬で解決してしまおうかと思うこともあるわけだ。
元よりめんどくさい事は嫌いなんだ。わかるか?』
正座してるニコラスは冷や汗をかきながら「なんで同じラスボスなのにこんなに違うんだ……」とよくわからないことを呟いています。
『そこで、俺様は話し合いに来たのだ。人狼の王子よ、俺様に全てを話せ。
隠していること、お前が知っていること、アイリのこと。全てだ。……もしも拒否するのなら』
私はニコラスを見てにっこりといつもの執事スマイルをしました。でもニコラスがその顔を見て青ざめてしまいましたのでちゃんと笑えていなかったかもしれませんねぇ。
「……わかった、全部話す。前にも少し話したけど、俺がこれから言うことは真実だ。嘘はつかないと誓う。
いいか……」
ニコラスはまだ後頭部をナイトにかじられたまま、真剣な眼差しを私に向けます。
「ここは乙女ゲームの世界で、実は俺はヒーロー兼ラスボスに転生した人間なんだ」
『…………』
「…………」
私は今度こそにっこりと微笑みました。
『滅ぼすか?』
「ほんとだって!信じろよ――――っ!」
まず、乙女ゲームってなんでしょうね?
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