執事は方法を探します

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執事は方法を探します

「では、すべて話していただきましょうか」  私はニコラスの首根っこを掴んで引きずりながら、ルチア様にお仕置きされてロープでぐるぐる巻きにされていた豚皇子を足で転がして別室へ入りました。  いえ、別に……ニコラスとお話された後に私の存在に気付いたアイリ様が悲鳴をあげて部屋の片隅に逃げて泣いてしまわれたからと言って、八つ当たりなどしていません。  さらにニコラスが「俺がなんとかするから」と言ったらアイリ様が「……ニコラス様が私を守ってくださるんですね」と微笑まれたのを見て胃がムカムカしたので、部屋から出た後に思わずニコラスの膝裏を蹴りあげて転倒させ目を回したのでそのまま引きずっていますが、これも八つ当たりではありません。  ちなみに豚皇子はルチア様がトドメを刺す前に引き取りました。まだ聞かねばならないことがありますからね。  別室の床にふたりを転がしていると、カルディナ様とルチア様がいらっしゃいましたので話し合いを始めたわけです。  まずは豚皇子からと言うことでぐるぐる巻きのまま床に座らせました。目を回していたニコラスも目を覚まし、豚皇子を黙って見ています。 「……魂が、ふたつあったんだ」  豚皇子がポツリと呟きました。 「魂に刻まれた力を見るためには、まず魂の道筋をたどらなくてはいけない。その道筋が途中で枝分かれしていた。  そこには輝きの違う魂がふたつあったんだ。本来の魂とは青白い炎のような輝きをしているのだが、アイリ嬢の中には青白い炎の魂と金色に輝く魂があった。  金色の魂は本来の魂とお互いを主張していて、金色の魂が本来の魂をなんとか押さえ込んでいるような状況だった」 「……」  その金色の魂と言うのが、の魂で間違いないでしょう。そして青白い炎のような本来の魂と言うのが、今の変貌されたアイリ様。 「……ふたつの魂にはそれぞれ違う力が刻まれていた。まず本来の魂には“魔物を操れる力”。これは力が覚醒すれば自分の意思で魔物を自在にできるということだ。  ……異国が求めているのはこの力だろうと考え、その力を持つ本来の魂を引っ張り出したんだ」  それを聞いていたニコラスの顔つきが変わります。ニコラスはアイリ様の隠された能力を知っていたはずです。 「……もうひとつの魂の力は?」 「もうひとつの……金色の魂の力は」  豚皇子がごくりと唾を飲み込んでから私たちから視線をそらしました。 「“自分の好きを好きと貫く”。と刻まれていた。こんな能力がどんな力なのかも、わざわざ魂に刻まれている意味もわからなかったし、必要など無いだろうと思って……」  “自分の好きを好きと貫く”。それはまさにアイリ様そのものです。それをこの皇子は必要ないと勝手に判断し、あんな魂と入れ替えたと……。 「お、おい!陰険……セバスチャン!」  ニコラスが慌てた様子で私の名を呼びました。 「なんでしょう?」 「お前、恐い!顔とかオーラとか恐ろしいことになってるぞ!  見ろよ、大国の皇女がショックで泡吹いて気絶してるぞ?!」  おや、カルディナ様が倒れておられますね。  白眼になって泡まで吹かれて……なにがそんなにショックだったのでしょうか?  よく見れば豚皇子も真っ青になってガ タガタと震えておられます。ルチア様は平気そうなのに、なにをそんなに怖がっているのかわかりません。 「セバスチャンの怒りは当然ですわ。 わたくしは怒り過ぎて逆に落ち着いただけです。わたくしがなにかするよりセバスチャンの方が的確に、そして確実にしてくださいますもの」  なにを。とはあえて言いません。どうやら任されたようですので、ご期待に添えたいと思います。 「それで、その魂を元に戻すにはどうすればよいのです?」 「も、戻す?だって、異国の求める魂は……。ひぃっ!」  私はまだなにもしていないのに、豚皇子は顔面を青から白くして後ずさりました。 「ちょっと待ってくれ。その前にやってもらうことがある」  豚皇子の前にニコラスが入り込み私に真剣な眼差しを向けました。いえ、ちょっとそらしましたね。 「なんです?」 「先にルチアの魂を見てもらいたい。異国からも依頼が来てるみたいだし、普通と違う魂ならばリリーの魂を戻すためのヒントがあるはずだ」  そういえば異国はアイリ様とルチア様の魂に刻まれた力を鑑定するように依頼してきていたのでした。  確かにルチア様には普通の人間とは違 う()()()を感じていましたし、もしかしたら……と考えたこともありましたが 「それは、ルチア様の魂を練習台にすると言うことですか?」 「それは……」 「よろしいですわよ。さっそくはじめましょう」  ニコラスが何か言う前にルチア様は豚皇子に向かって手を差し出しました。 「ルチア様」 「わたくしがアイリちゃんのお役にたてるなら悩む必要などありませんわ。利用できるものはすべて利用する……そうでしょう?セバスチャン」  ルチア様の瞳に迷いなど微塵もなく、私は改めてこのアイリ様のご友人に頭を下げます。すべては愛しいアイリ様に再び会うため。  それはルチア様も同じ気持ちなのです。 「わ、わかった。では……」  私と距離を取りながら豚皇子がルチア様の手を握りました。少々下心を感じる握り方に、もしボディーガードさんがいらっしゃったらこの皇子は後でとんでもない目に合わされていただろうと思います。  ボディーガードさんはルチア様たちの影武者と共にどこか別の国へ行かれていますが、今頃心配されていることでしょう。 「……これはっ?!ルチア嬢も、魂がふたつある……?!」  私とニコラスが一瞬見合ってからルチア様と豚皇子へと視線を動かします。  豚皇子の説明によれば、今のルチア様が本来の魂でその隣に寄り添うように淡い輝きの魂があるとのこと。同じふたつの魂でも、アイリ様とは状況が違うようです。  そしてルチア様の魂に刻まれた力が判明しました。 「“魔獣使い(ビーストマスター)”。あらゆる獣を鞭で従わせることが出来る力だ。ただし獣に服従する意思がなければ完全には従わせられないだろう」  鞭で獣を従わせるとは、またピンポイントな能力ですね。  しかし“魔獣使い(ビーストマスタ ー)”とは…… 「はるか昔ですが、魔獣使い(ビーストマスター)と言う人型の魔物の種族がいましたよ。  滅んだはずですが、もしかしたら生き残りが人間と交わっていたのかもしれませんね。ルチア様も先祖返りの一種でしょう。魔獣使い(ビーストマスター)の種族は女性が強い種族だったはずです」 「そうですか。では、もうひとつあるという魂はどうですの?」  ルチア様は私が魔物に詳しいことにも、ご自分の先祖に魔物がいたかもしれないことにもなんの興味も示しません。私のことはともかく、魔物の子孫かもしれないというのは人間には重要案件かと思ったのですが、そこまで気にすることは無かったようですね。 「……もうひとつの魂は、なにかを訴えている。特別な能力は無いようだが、強い想いがあるようだ。  ルチア嬢と対話をしたいと……、あっ!?」  皇子が叫ぶと同時にルチア様の体がビクン!と痙攣しその場に倒れてしまわれました。 「ルチア様、どういたしました?!」  ソファにぐったりと身を預けたルチア様は意識を失っているようで返事はなく、ピクリとも動きません。その手に触れると、氷のように冷たくなっていました。 「おい、ルチアはどうなったんだ?!」  ニコラスが皇子に詰め寄ると、皇子は慌てて首を振ります。 「わ、わからない。もうひとつの魂が急にルチア嬢の魂の中に入り込んだんだ!魂がふたつあることさえ謎だらけなのに、その魂がひとつになるなんて……そんなのあり得ない……!」  一体、ルチア様の身に何が起こっているのか……。  私は、まるで死人のように冷たくなっていくルチア様を見ていることしか出来ませんでした。
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