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ルチア爆誕?(ルチア視点)
ふわふわしてる。気が付くとそんな世界にいた。
さっきまであの皇子に魂の鑑定を受けていたはずなのに、今はひとりで白くてふわふわしてる奇妙な世界にいたのだ。
足元がふわふわしてて歩きにくいなと思っていると、いつの間にか目の前に誰かが現れた。
その誰かは長い黒髪を三つ編みにして、見たことの無い紺色の服を着た少女。その少女はわたくしを見てにこりと微笑みを向けた。
「やっと会えた」
「あなたは……?」
わたくしの問いかけに少女は笑顔のまま首をかしげる。
「わたし?わたしはあなたよ。ゆっくり自己紹介したいところだけどあんまり時間がないの。よく聞いてね?
選択肢を選べるのは1度だけ。それによってアイリのエンディングが決まってしまうわ」
「アイリちゃんの、エンディング?」
意味がわからず思わず聞き返すと、今度はちょっと顔をしかめてしまった。
「もう、いいから聞いてってば!わたしはあなたの中からずっと見てたからだいたい知ってるのよ!ほんとはもしあなたがゲームの悪役令嬢と同じくアイリを陥れようとしたらすぐにでも入れ替わってやろうと思ってたけど仲良くしてたからおとなしくしてたのに、あの豚皇子のせいでアイリが大変なことになってるからわざわざ出てきたのよ?!
あんまり長時間出てきちゃうとそれこそあなたの体を乗っ取っちゃうかもしれないからおとなしく聞いてて!」
ゲーム?悪役令嬢?
やっぱり意味はわからなかったが少女の剣幕に押されうなずくと少女は「よし!」と満足げに話を続ける。
「いい?このままにしてたらアイリは元のアイリに戻れなくなるわ。ちょっとややこしいけど、本来の魂の方が本当は強いのよ。元のアイリは自分の意思の強さだけでヒロインを押さえ込んでいたから、あの皇子が無理矢理に魂を入れ替えたからそのショックで魂が眠っている状態なのよ。でもこのままじゃそのうち負けて消えちゃうわ。
本来の魂は元のアイリの魂を嫌っているから。だから、アイリをなんとか起こしてあげて欲しいの」
「あなたはアイリちゃんとどんな関係が……?」
少女は目を細め、懐かしげに語りだした。
「あの子は……愛莉(アイリ)は、わたしの大切な親友よ。
わたしのこと“るーちゃん”って呼んで人の胸ばっかり触ってくる困った子だったけどね。それがあの子ったらある日突然死んじゃってさ、あの子がいないとわたしの世界は静か過ぎてもっと困っちゃった。
……だから自分が事故で死んだ時もあの子と同じ場所にいけるならそんなに辛くなかった。そしてあなたの中で目覚めたけどあなたもあの子のこと大好きだったからわたしはおとなしくしてたの。
わかった?わたしはあなたの前世みたいなもので、あなたと同じく愛莉が大好きなのよ。
わたしは……もうすぐ消えてしまうから、あの子に“大好きだよ”って伝えて欲しいの」
そう言う少女の体が足元からぐにゃりと歪み出し、足先が薄くなっていった。
「なぜ、消えてしまいますの?」
「今はあなたにアイリのことを伝えるために、無理矢理に魂に入り込んでるのよ。このままじゃ魂が入れ替わるか、お互いに反発したりして大変なことになるかもしれないの。
もっと子供の頃ならまだしもここまで自我が確立しちゃうといくら前世の魂だろうと簡単じゃないのよ。今までは側で見守ってただけで干渉しなかったから魂が存在できたんだけどね。
わたしはあなたを乗っ取る気はないの。アイリはあなたのこと大好きだから、わたしの方が消えた方があの子のためなのよ。
いい?あの子を起こす方法だけどね……っ?!」
気が付くとわたくしは少女の肩を力いっぱい掴んでいた。
「ちょ、なに?!」
「消えるなんていけませんわ!アイリちゃんが大好きなんでしょう?そしてきっとアイリちゃんもあなたのことが大好きなはずですもの!
わたくしの中にいるアイリちゃんを好きな人が消えるなんて、そんなこと許しませんわ!」
「そんなこと言っても、それじゃあなたの魂がどうなるかわからないって言って」
「あなたはわたくしなのでしょう?!ならば、どうにかなるはずなどあり得ません!」
そのまま少女を抱き締めるとお互いの大きな胸がぶつかり弾力で少し弾かれた。
それを見た少女がクスッと笑う。
「愛莉がここにいたら、“ぽよんぽよん天国だー”ってアホな顔してアホなこと叫んでるわね」
「あら、あれは史上最強に可愛らしい顔ですわよ」
わたくしと少女はお互いに笑顔を向け、クスクスと笑い合った。
きっとこの少女が思い出しているアイリの姿と、自分が思い出しているアイリの姿は同じはずだ。
「そうよね、わたしの魂が別れていたのはきっと愛莉のことを伝えるためだもん。それなら、このまま一緒になっちゃえばいいのよ。
……でもあなたは本当にいいの?もしかしたら人格が変わるかもしれないし、わたしに体を乗っ取られるかもしれない。ちゃんとその辺わかってる?魂のことなんてどうなるか誰にもわからないのよ」
「あら、わたくしは簡単に乗っ取られたりしませんわ。それに、アイリちゃんを愛でる仲間が増えるだけでしょう?
できればあなたの意識も保ったままでいてくださいな。いつでもアイリちゃんの話をできる相手がいれば嬉しいですわ」
わたくしが当たり前のようにそう言うと少女は嬉しそうに涙を浮かべて笑った。
「了解。じゃあ、ちょっくらあのアホを起こしに行きますか。あの子が確実に起きるだろう方法があるのよ。
ほんとはあなたにやってもらおうと思ってたけど、わたしがするからちょっと体を借りるね?
不思議ね、もうなにをしても大丈夫な気がしてきたのよ。やっぱりあなたはわたしなんだって、そう思ったら全部うまく行くって気がしちゃった」
「当然ですわ。わたくしはアイリちゃんのためならなんでも出来ますのよ?そしてわたくしが消えてしまったらアイリちゃんの可愛い姿を愛でることが出来なくなってしまうので、決して消えたりしませんわ」
わたくしが少女に「あなたの名前を伺っても?」と聞くと、少女はまた可笑しそうに笑った。
「留千愛(ルチア)。わたしが生きてた時はキラキラネームだってよくいじめられてたけど、今はなかなかいい名前だって思ってるよ」
そこで、わたくしの意識は途絶えたのだった……。
*****************
目を覚ますと、3人の男がわたしの顔を覗き込んでいた。
「ルチア様、ご気分は?よかった、体温も元に戻ったようですね。先程まで冷たくなられて……」
黒髪に黒目のイケメンがわたしの手首に触れる。
ちょっといけすかないけど、まさにあの子の理想の男ドンピシャ。こいつがあのラスボスだ。確か今はセバスチャン。
わたしはセバスチャンの手首を力いっぱい掴み、ニヤリと笑ってやった。
「ルチア様……ではない?」
おや、わたしがいつものルチアと違うとわかったようだ。さすがはラスボスってとこ?
「わたしは留千愛(ルチア)よ。今はちょっと借りてるの。早くあの子のところに連れていってちょうだい。吸血鬼さん?」
セバスチャンが驚いたようにわたしを見る。
「愛莉(アイリ)を戻すわ。手伝ってもらうわよ。 もちろんやってくれるわよね?」
わたしの言葉を聞いて、驚きながらもうなずくセバスチャンに心の中で安堵する。
この方法はセバスチャンでなくては成功しないからだ。
「お、おい!ルチア?!一体何をする気だ?!」
ミルク色の髪の男がわたしの肩を掴んできた。ハーレムルートのラスボスであるニコラスじゃないか。
実はこいつは前々から怪しいと思ってたんだけど、直接見たら確信した。わたしはこいつには言いたい事があったのだ。
セバスチャンの手首を離しニコラスの服を掴んでひっぱると、ニコラスが驚いた顔を向ける。
「あんた、隣のクラスの谷上颯人(タニカミハヤト)でしょ?
いっつも休み時間に廊下から愛莉の事見つめてたくせに、告白せずに死んじゃったヘタレ」
ニコラスの顔色が変わった。当たりのようだ。
「まさか、お前……」
「愛莉はね、あんたのお見舞いに行くって出かけた先でトラックに轢かれて死んだのよ。
いつも見てきてたから、もしかしたら同じゲームが好きで友達になりたいのかもしれないってあんたのこと気にしてて、入院したって聞いたから例のゲームを持ってね。その日わたしは家の用事があって一緒にいけなかった。……わたしはあんたを恨むわ。
あんたがちゃんと告白なりしてたら、あの子は事故になんか合わなかったかもしれないんだもの。告白して、ラスボスの方が好きだからってフラれてればよかったのよ。
こんな世界にまで追いかけてきて、また愛莉をこんな目に合わせて、よく好きだなんて言えるわね?」
「俺は……」
「あの子が好きなのは、吸血鬼の方のラスボスよ。隠れキャラのラスボスなんか存在すら知らないんだから。
この世界はあのゲームだけど、やっぱり現実なのよ。もうわかってるでしょ?」
「……」
黙ってしまったニコラスから手を離し、もう一人の男……豚皇子に視線を向ける。
「ちょっと、あんたも手伝うのよ?
魂を引っ張り出せるなら、逆もできるでしょう。
もしもの時はわかってるでしょうね?!」
「な、なんでもしますぅぅぅっ!」
ヒールの踵で思いっきり豚皇子の目の前の床に穴を開けてやったら素直にうなずいてきた。ルチアの体すごいな。ヒールってほんとに穴を開けれるんだ。
あぁ、女王様モードならできそうかな?ツンデレ設定の悪役令嬢がヒロインにデレデレの鞭の女王様になってしまったのだ。
愛莉は確かに悪役令嬢が好きだと言っていた。たぶん、断罪させないために愛莉の能力が設定を変えてしまったのだ。
あの断罪事件は双子王子の策略だったけれど、ゲームの強制力が悪役令嬢を断罪するために働いたのだろう。
わたしはセバスチャンに向き直り、改めて手を差し出した。
「愛莉を救うために、あなたの決意見せてもらうわよ?」
セバスチャンはにこりと執事スマイルを見せる。
「アイリ様のためなら、喜んでーーーー」
それは、わたしから見たらなんだか胡散臭い含みのある笑顔に見えた。まったくあの子は、こんなラスボスのどこがそんなに好きなのかね?
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