執事はピンチをむかえます

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執事はピンチをむかえます

 ……あぁ、なんということでしょう。私、かなり長い時間を生きてきましたが我が吸血鬼生において最大のピンチかもしれません。  まさかこんな…… シュルッ……ハラリ……  私の首元からネクタイがほどかれ、足元へと落とされました。  ボタンもすでにいくつか外され胸元が露にされてしまいましたが私は抵抗出来ずにおとなしくしております。  そんな私を見上げてとある淑女がニヤリと笑いました。 「さぁ、吸……セバスチャン!最大限のフェロモンを出して愛莉を炙り出すのよ!」 「……とりあえず縄をほどいて欲しいのですが」  今の私の姿は両手を縛られ天井から吊るされた状態になっていて、ルチア様が楽しそうに私の衣服を剥がしております。  こんな姿を晒すはめになろうとはなんとも複雑な気分です。 「え~、この自由を奪われていたぶられる感じがいいんじゃない?だいたいあなたが手っ取り早い作戦を嫌だって言うからこれにしたのよ?決意を見せてくれるんでしょお?」  ルチア様は不満そうに頬を膨らませております。ルチア様といっても中身はどうやら違うらしいのですが。  しかしアイリ様の事を詳しく知ってらっしゃり、確かにアイリ様が反応を示しそうな作戦でした……。が。 「アイリ様の目の前でルチア様とはしたないことをするなんてとんでもありません」  と言うか、したくありませんので却下いたしました。 「絶対に一瞬で戻ると思うのになぁ。じゃあニコラスを裸にひんむく?BLでも反応するかもよ」 「そんなことをするぐらいならとりあえずニコラスを100回抹殺します」  びーえるとやらがなにかはわかりませんが、今のルチア様の笑いを堪えて吹き出しそうな顔を見ればだいたい想像がつきます。悪寒がして鳥肌がたちそうです。  ルチア様は横にいるニコラスをチラリと見てまたニヤリと笑いました。 「あんたセバスチャンとBLするのと抹殺されるのどっちがいい?」 「どっちもお断りだ!例えそうなってもリリー出てこないんだろ?!っておい、俺の服を脱がすなよ!」 「ヘタレのくせにいい身体してるじゃな~い。  愛莉はラスボスを剥製にするのが夢だったから、あんた吸血鬼の代わりに剥製になれば?一応ラスボスでしょ?」 「いやだよ!!」  半裸状態の私を放置してルチア様は今度はニコラスを脱がし始めました。(その様子を豚皇子が羨ましそうに眺めていますが全員無視しております)  ちなみにこのやりとりはすべてアイリ様の目の前でおこなわれております。  アイリ様は猿轡をされた上に椅子に縛られた状態で顔を赤くしたり青くしたりしながらもがいておられます。 「うーっ!うーっ!」  なにか訴えているようですがまだ元には戻ってないようで、私を憎々しげに睨んで来ます。その様子を見てルチア様が首をかしげました。 「うーん、まだ刺激が足りないみたいねぇ。あ、それともすでに愛莉ともっと刺激的なことしちゃってる?  あの子積極的な割には想像だけで鼻血出して気絶しそうになる子だったから、てっきりまだだと思ってたんだけど」  ルチア様がルチア様らしからぬニヤニヤ顔で半裸になったニコラスを踏みつけながら私の頬をペチペチと叩いてきました。 「……黙秘権を行使します」  出来るだけ平静を貫いたつもりだったのですが私の返答にルチア様は嬉々となさり、ニコラスは……なんとも表現しにくい顔をしております。 「んふふふ。そっかー、ちょっとくらいはなにかあったんだぁ。愛莉もやるじゃない」 「お、おまっ!リリーになにしやがった?!まさかあの時かっ?!」  ニコラスがなにか叫んでおりますがどの時でしょうか? 「とにかく、いい加減にこの縄をほどいて下さい。なにか別の方法を…………あっ?!」  半裸のニコラスが近づいて絡んできだしたのがかなり鬱陶しくなってきたのでつい縛られている両手に力が入ってしまい、その拍子に縄が千切れて私の体は横倒しになってしまいました。私がその気になればこんな縄などすぐにバラバラに出来ましたが、一応豚皇子が見ているので人間らしくそうならないように気を付けていたのに、ニコラスのせいで台無しです。  しかもとっさのことで受け身がとれず顔から床に落ちてしまい、これでは顔面を強打……していません。  私の顔は柔らかい塊に挟まれていました。なんと、ルチア様の上に倒れてしまいその胸に顔を挟まれている状態のようです。  もちろんすぐに離れようとしましたが足元にニコラスが絡まっていて動かした顔が再び胸に埋もれてしまいました。  駄犬が非常に邪魔です。 「ぶふっ、ラスボスと悪役令嬢がR-18はヤバくない?!」  ルチア様がよくわからないことを叫ばれました。顔は見えませんが笑っているようです。 「あああぁぁぁぁ?!」  今度は豚皇子の叫び声が聞こえました。またルチア様関連で嫉妬でもして叫んでるのかと思ったらなにやら様子が違うようです。 「あ、愛莉が……」  ルチア様がそう呟いた瞬間。 「浮気は許さないって言ったでしょおぉぉぉぉぉ?!」  そこには猿轡とぐるぐる巻きにされていたはずの縄からどうやったのか抜け出し、右手にメリケンサックを嵌めたアイリ様が私の足元に絡まっていたニコラスを殴り飛ばしていらっしゃいました。  ニコラスが離れたのでやっと身動きがとれ起き上がると、半泣きのアイリ様が抱きついてきました。 「セバスチャンっ!」 「アイリ様……」  ちなみにルチア様は「だから言ったでしょ」と言いたげな顔でこちらを見ています。 「どうゆうことなのっ!?ルーちゃんの胸にぽよんぽよんしたくなるのはしょうがなくても、まさかニコラスとBL展開なんて!はっ、そうかニコラスは最初からセバスチャン狙いで私に近づいていたのね?!  確かにセバスチャンはカッコいいし色っぽいし、いい匂いがするし!同性だろうとなんだろうと魅了するのは当たり前だけど!  そうか、ニコラスは犬だからセバスチャンの匂いにメロメロになってしまったんだわ!私としたことが気づかなかったなんて……!」  確かに元のアイリ様に戻られたようです。 「アイリ様、落ち着いてください。とりあえず衣服を整えたいのですが……」  私の服は乱れたままでアイリ様が抱きついている胸元は露になったままです。それに気づいたアイリ様が顔を赤くされてぱっと離れてしまいました。 「う、うん。ごめんなさい、私ったら気が動転して……。  とりあえずニコラスを肉塊にしておくねっ」  少し照れた様子で小首をかしげ、メリケンサックを握りしめたアイリ様はとても可愛らしいのですが……なんでしょう?なにやら発言が前より過激になった気がしないでもないような……。  まぁ、たいしたことではないです。  私が服を整えている間に後ろの方で「ぐはっ!?ごかい、かんべ……!」などと断片的な駄犬の鳴き声が聞こえた気がしましたがその合間に「そうよね。セバスチャンが浮気するはずないし、セバスチャンを襲おうとしたニコラスが悪いんだから!これは再起不能にしとかないとねっ」とアイリ様の声も聞こえてきました。  やはり少々過激になられたのかもしれませんね。
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