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わたしらしく(留千愛視点)
あの子と初めて会った時の事は今でも忘れない。だって、わたしの人生をあの子が変えちゃったんだもん。
いじめられてたんだよねー。名前も変わってたし、やたら胸だけ成長してたせいか主に女子たちに。
なんだっけ?
「男子に色目を使ってる」とか「○○○の彼氏を誘惑した」とか「キラキラネーム女」とか言われたっけ。
はぁ?男子に色目ぇ?誘惑ぅ?なんでわたしがあんなお子さま男子たちをわざわざ誘惑しなきゃいけないわけ?
わたしの理想のタイプはアニメやゲームに出てくるような男気溢れるハードボイルドだっつうの。
あ、でもハードボイルド系って女好きが多いけどさ、最後にちゃんとキリッと決めてる大人の男って感じするからいいじゃない。
でもコ○ラよりはシテ○ーハ○ターかな。生まれる前のアニメだけど再放送で見たの。
え?オタク?まぁ、それは認めるわ。将来金銭的余裕が出来れば、グッズ収集もしたいしね。
まぁそんなわけで、男子からはいやらしい目で見られるし、女子からは目の敵にされる日々よ。
わたしもさすがにいやだったからできるだけ胸を隠して歩いたり、名前を聞かれても名字しか答えなかったり、もちろん趣味も隠したわよ。バレたら絶対またいじめられるだけだもの。
でも名前のこと言われても困るのよね。わたしが自分でつけたんじゃないし親に言ってくれる?
母親に名前の由来を聞いたらのほほんとした顔で言ったわ。
「ママねぇ、外国のお嬢様とかお姫様みたいな名前に憧れてたのぉ。でも自分の名前は平凡だったから、娘が産まれたら可愛い名前つけるって決めてたのよぉ」
ちなみに母親の名前は羽菜子(はなこ)よ。わたしもそんな名前が良かったわ。
さらに言えば母親の胸も凄いから遺伝ね。
もう色々と諦めたわけよ。文句言われたって名前を変えるわけにも胸を小さくするわけにもいかないでしょ?別に好きでも無いんだけどさ。
でも、そんなときに出会っちゃったの。あの子に。
いつものように女子にいじめられてて、もう疲れちゃったなーって思ってたら現れたの。不敵な態度と口八丁で追い払っちゃった。
そして、わたしに笑顔を向けた。
「“ルチア”って凄く可愛い名前だね!」
そんなこと、初めて言われたわ。しかも、そんな可愛い笑顔を向けられたのも初めてよ。
大きな瞳をキラキラさせて、まるでそこに花が咲いてるような可愛い女の子。
アニメ以外で、こんなに可愛い生物初めて見たわ。
自分の顔が真っ赤になってるのに気づいたときにはその子はわたしのことを「るーちゃん」って呼んでていつの間にか手を繋いでた。
それからの日々はあっという間に過ぎたわ。愛莉はわたしの親友になってくれて、ゲームやアニメが好きな事を打ち明けてもわたしを馬鹿にしなかった。
それどころか大ハマリしてくれて、今では愛莉の方が中二病だわね。毎日楽しかった。
男子からの嫌な視線も、女子からのいやがらせも続いてたけど全然気にならなくなったし。
愛莉が教えてくれたのよ?好きな事は好きだって貫けばいいって。
わたしは学校でも堂々とアニメやゲームの話をするようになった。この名前もね、今までは嫌いだった。でも愛莉が誉めてくれたからなかなかいい名前かなって思ってるよ。
胸も・・・そんなの愛莉が「ぽよんぽよん天国だーっ」て笑顔で抱きついてくるんじゃ隠せないじゃない?
前に胸を押さえつけた体のラインが出ない服を着たときに怒られたのよね。そしてわたしの胸かどれだけ素晴らしいかを熱く語られたのよ。
え?隠すなら揉んでもっと大きくしてやる?ええい、寄せてあげるな!これ以上大きくならんでいいわ!
無理に隠してバランス悪くするより堂々としてた方が格好いいって言うんだもん・・・。
さすがに激しい露出はしないけど、ちゃんと胸のサイズに合った服を着るようにしたよ。憧れのゴスロリとか胸が大きすぎると恥ずかしいかもって思ってたのに、今や堂々と着てるしね。
「るーちゃんは、るーちゃんらしくしてるのが1番格好いいよ」
そうね。愛莉も、愛莉らしくしてるのが1番可愛いわよ。
ゲームの吸血鬼(ラスボス)に本気で恋しちゃってさ。いつもキラキラしてる瞳がもっとキラキラして、それはもう可愛かったんだよ。
周りになんて言われようが関係無い。愛莉はわたしの人生には不可欠になった。
でも、いなくなっちゃった。
神様がいるとしたら意地悪過ぎでしょ?お見舞いに行った病院の前で交通事故?なによそれ。
しかもゲリラ豪雨で視界が悪くなった時に路上駐車された車を避けたトラックにひかれたとか、運悪すぎだよ。
もしゲリラ豪雨が無かったら、もし車がそこに停まってなければ、トラックかその車をよけなければ・・・。
わたしが一緒に行っていれば愛莉は死ななかったかもしれない。親に頼まれて親戚を駅まで迎えに行っただけだったのに。
こんなことなら断れば良かった。
だから、別の日にしようって言ったのに。そういえば、その日に入院してたあの男子も死んだらしい。
谷上颯人。いつも廊下から愛莉を見てたくせに告白どころか声もかけずにいたヘタレ。
あいつのお見舞いに行ったせいで愛莉は死んでしまった。谷上、まさかあんたが愛莉を連れていったの?
愛莉のお葬式はなんだか現実じゃないみたいな感じがした。棺の中から見えた愛莉の顔はきれいで寝てるみたいだったし、今にも目を覚まして笑顔を見せてくれるんじゃないかって思った。
愛莉、わたしこれからどうしよう?あんたがいないこれからの人生なんて考えもしなかったから、困るじゃない・・・。
「るーちゃんは、るーちゃんらしくしてるのが1番格好いいよ」
そんな愛莉の声が聞こえた気がした。
それからわたしは静かに学校生活を送りつつ、あることに没頭した。
愛莉が大好きだったあの乙女ゲーム。続編が出てたんだよね。最新式のゲーム機ならパソコンからアップデートできるんだけど、わたしと愛莉が持ってたのは続編用のディスクを入れてダウンロードしないと続編ができない旧式だったからすぐには出来なかった。
しかも人気があって品切れだったんだけど、やっと手に入ったのだ。愛莉を驚かせようと思って内緒で買ったんだけど、あの日に届いたのだった。
ずっと手付かずで机の上に置きっぱなしだったけど、どうせならこの続編をクリアして愛莉の墓に報告しに行こう。
羨ましがって蘇ればいいのに。
続編は隠れキャラがメインだった。なるほど、全ルートストーリーのクリアデータが必要な上に、隠れキャラがかなり重要な役割をしているようだ。
これじゃ愛莉は続編出来なかったね。あの子ハーレムルートやってなかったもん。
しかもハーレムルートでの悪役令嬢の生存率まで関係してくるなんて、この続編を手に入れてからゲームをやり直した人は山ほどいることだろう。
わたしは悪役令嬢が生きてる方のクリアデータから続編を始めた。愛莉は悪役令嬢が大好きだったからなんとなくその方が喜ぶと思ったからだ。
そして続編をクリアしたのだった。まさかの展開に驚いたが、愛莉が聞いたらどんな反応してたかなぁ。と思う。
なにより驚いたのが、あとで悪役令嬢が死亡している方のクリアデータからの続編もやってみたのだが事の顛末がまったく違っていたのだ。
なぜかふたつのルートでヒロインの性格も違っていたし、ハーレムルートにはいなかったあのキャラの存在まで違っていた。
まさか悪役令嬢が生きてるか死んでるかで、こんなに違うとはね。
でもわたしは、悪役令嬢が生きてる方のストーリーの方が好きだよ。だってヒロインが悪役令嬢と友達になってて、性格も変わってて、なぜかその側には黒髪の執事がいた。
本来のメインストーリーは悪役令嬢が死んでてネガティブなヒロインが隠れキャラと新たな敵を倒して世界統一って感じらしいから、こっちはパラレルストーリーみたいだけどね。
「こっちの方が、あんたらしいよね。
ね、アイリ」
ゲーム画面の中で、ヒロインがキラキラした瞳で笑顔を見せた。
それから数ヶ月後、愛莉の墓参りの帰りにわたしは死んでしまった。あんまり覚えてないけどたぶん交通事故。
愛莉と同じ所に行くのかなって思ったら、怖くなかったよ。
そして今、まさにパラレルストーリーのヒロインが目の前にいる。
本来のヒロインの魂を押し退け戻ってきた愛莉は豚皇子からどうやって戻ってきたのかと質問攻めだった。
愛莉は「うーん」と顎に指先を当て考えてからにっこりと笑った。
「ヒロインの魂の耳元で、セバスチャンとルーちゃんの素晴らしさをひたすら語ってわかってもらったんだよ!」
魂の耳元ってなにさ?
「だからどうやって?!」
「なんかこう、精神と○の部屋みたいなところがあったから、それはもうじっくりと・・・」
なにそれ、ドラゴ○ボール?
ちなみに好きな事を語り出した愛莉は止まらない。なんか目が別世界にいっちゃってる感じがして慣れてないとかなりの恐怖だ。
つまり簡単に言うと、吸血鬼(ラスボス)と悪役令嬢への愛が溢れた愛莉の精神攻撃をモロに魂に受けて、本来の魂であるヒロインが負けたわけだ。
あれだけ騒いだ割にはあっさりだよ。
まぁ、いいんじゃない?やっぱりあんたはそうでなくちゃね。ね?愛莉。
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