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「ぼくはロロ。この子はムササビのルルだよ。君の名前は?」 ロロと名乗った男の子は、パレットとムササビのルルの間に割って入る。 喧嘩でもしそうな空気になっていたのを止めようとしたのだろう。 彼はルルをなだめながらパレットへ訊ねた。 「あたしはパレット。パレット・オリンヴァイ……なんだけど。どうしてムササビが喋ってるの?」 訊ねられたパレットはすぐに質問をした。 ロロは小首を傾げながら笑みを浮かべている。 「一応ぼくの魔法なんだけど。知らない? 言葉の魔法?」 パレットは、とても訊きづらそうに言うロロを見て、自分がこれまであまり教育を受けてこなかったことを話した。 天涯孤独の身で孤児院で育てられたため、およそ同世代が知っているようなことはほとんど学んでいない。 だから、当たり前にそういう魔法があると言われてもわからないのだと。 「おかしいよね。当たり前のことなのに知らないって……」 少し恥ずかしそういったパレットだったが、そんな彼女へロロは優しく微笑みを返す。 「じゃあ、ぼくと同じだね。ぼくも君の魔法を知らなかったよ。当たり前なんでしょ? そのヴァイオリンを出す魔法って?」 パレットはコクッと頷いて返した。 ロロは、彼女が使用している魔法のことを知らなかったが、先ほどルルに教えてもらったのだという。 それを聞き終わったパレットは、両目を見開いたまま後退し、また彼に訊ねる。 「で、どうだったかな? あたしのヴァイオリン……」 恐る恐る訊くパレット。 彼女は自分の演奏が、まだ素人の域を出ていないことを自覚していた。 だが、たとえ辛辣なことを言われようとも感想は聞いておきたいのだった。 身を震わせているパレットへ、ロロは少しの間もなく返事をする。 「うん。ビックリするくらい下手だったね」 「ギャフン!」 ロロの率直な感想を聞いたパレットは、叫びながらその場に倒れた。 そして、瀕死の兵隊のように呻きながら立ち上がる。 「あなた……優しそうに見えて結構容赦ないのね……」 「だって演奏がどうだったって訊かれたから。あッ、だけどね」 ロロは、フラフラで足元がおぼつかないパレットを真っ直ぐ見つめながら言葉を続けた。 「ぼくが今まで聴いてきた音の中でも、誰よりも優しい音色(ねいろ)をしていたよ」 ロロの輝く瞳に見つめられたパレットは、思わず顔を背けてしまった。 そして、再び彼の姿を見る。 ポンチョを羽織り、靴もピカピカ、そして、身に付けているすべてのものが品の良さを感じさせる。 きっとこのロロという少年は、お金持ちの家で生まれた子なのだろう。 パレットは、ロロが自分とは身分が違うことを理解すると、積極的に声をかけ始めた。 こんなところで何をしているのか? 最近は空疫病(くうえきびょう)のせいで、自粛勧告が出ているのに、外へ出て家の人は心配しないのか? ――と、次々に質問をした。 「う~ん、実はその空疫病のことを調べてるんだ」 何故か困った顔をして答えたロロ。 そして、そのままの表情でパレットに訊き返す。 「でも、この辺はステイション·トゥ·ステイションくらいしか入ったことがなくてね」 ステイション·トゥ·ステイションは、まさに二人がいる前にあるこの大陸一番の大劇場。 パレットは話を聞いているうちに、ロロの素性をわかってきたつもりになっていた。 「え~と、オリンヴァイさん。よかったらでいいんだけど。どこかこの辺で宿があるところを教えてもらえないかな?」 「パレットでいいよ。だからあたしもロロって呼ばせてね。宿ならうちに来ればいいよ。ちょうどこれから向かうとこだし」 満面の笑顔がそう言ったパレットだったが、実はその内心であることを企んでいた。
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