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マリアの未来日記 アラカルト
「マリアと麗奈」
ノックのあと、綺麗な女性が入ってきた。ふわふわのベージュの髪をハイポジションのツインテールにしている。僕たちと同じくらいの年齢に見えた。彼女は受付にいる僕を見るなり、微笑んだ。
「いらっしゃいませ」
僕が言うと、彼女は笑顔を消した。そして言った。
「よろしくね。お手並み拝見。ここ、先払いだっけ?」
「はい。お願いします」
薄いパープルのニットに濃いパープルのスカートを履き、黒いカーディガンを羽織っている。おしゃれだが、髪型と服装が何となくアンバランスに見えた。鑑定料を受け取ると、僕は、彼女に占いの部屋を案内した。
*
「こんにちは!」
彼女があいさつした。気取った言葉だけのあいさつ。頭を下げることもない。
「こんにちは。ようこそ、占いの館へ。マリアです」
彼女は、占いの部屋を見渡した。
「ただのオフィスみたい。もっと、占いの部屋らしくしたらどうかしら?」
「ご意見ありがとうございます。母の代からこれでやっているの。占いの精度自体には何ら影響はありません」
「そう? 雰囲気も大切だと思うけど」
マリアは彼女を黙って見つめた。
「私は、ここに座ればいいの?」
「はい、おかけください」
女性が座った。マリアはしばらく黙って、女性を見たあと言った。
「あなたはどうして、ここに来たんですか?」
「占ってもらうために決まってるじゃない。私のことを占ってみて」
マリアはテーブルの引き出しから、タロットカードを取り出して、テーブルの上に並べた。
「マリアさんも、タロット占いなの?!」
「いいえ、違います。タロット占いは、あなたですよね?」
女性は平穏を装ったが、動揺は隠せなかった。
「何を言っているの? 私の将来を占ってみて」
「ご自分でなさったらいかがですか?」
「私は、お金を払って見てもらおうとしているのよ。早く占って」
マリアは彼女をにらみつけた。
「お金は返します。お引き取り下さい」
「どういうこと? あなた、インチキね。やっぱり。高額な金額を払わせて客
に自己暗示をかけるやりかた。うまい商売だわ。10万円も払ったら、あなたの言うことが正しいと思ってしまうわよね。損はしたくないから」
「帰ってもらえないなら、私、言わせてもらいますよ」
「どうぞ。何でも言って」
「あなたは『卑弥呼』さんよね」
彼女は絶句した。マリアの視線を避けるように顔をそむけた。しばらくして
落ち着きを取り戻した後、薄笑いを浮かべてマリアを見て言った。
「よくわかったわね、私が『卑弥呼』だってこと。顔は一切公表してないの
に、どこから情報が漏れたのかしら・・」
「漏れていませんよ、佐藤麗奈さん」
「なんで、私の本名まで!?」
「あなた、最近すごい人気の占い師でしょう。使うのはタロット。あなたは、占いの精度を上げるために相当努力してきた。札幌ではトップクラスの技術を持っている」
佐藤麗奈は笑った。
「さすがね、マリアさん。料金が高いだけはあるわー。私、タロット占いには絶対の自信があるんだ。だけど、マリアさんのやり方も見てみたかったの」
「私の占いは、他と比較するものではありません」
「はい、降参、降参。名前まで正確に当てるのは、タロットでは無理だわ・・」
麗奈は立ち上がってマリアに近づいた。
「ねえ、どうやって占ってるの? 教えて!」
麗奈は目を輝かせて、マリアを見つめた。
「私は、見えるものを見ているだけよ」
「見えるもの? 何それ? 占いなの?」
「自分でもよくわからない。でも、この力で人を幸せにしたいと思ってる」
「は?」
「私、麗奈さんがどうして占いを始めたのか、わかる」
麗奈は表情を変え、唇をかみしめた。
「あなたには分かりっこないわ」
「麗奈さんは、高校時代に好きだった人を今もずっと探している。お互いに好きだったのに、突然の転校で離れ離れになってしまった。あなたはすぐに彼の行方が分かると思っていた。でもそれは誤算だった。探偵を雇っても、彼の居場所を突き止めることが出来なかった。だから、あなたは、占いで彼の居場所を突き止めようと思ったの。あなたは、いろいろな占い師に見てもらった。けど、だめだった。だからあなたは、自分で占いを勉強して、占いの力を高めて、彼を探そうとした。そして今も彼を探し続けているの」
さすがの麗奈も、驚きは隠せなかった。
「岬洋平さんは、外国にいます」
「えっ?」
「外国・・イギリスのウェールズ地方よ。そこで、大学の研究員をしている」
「洋平が・・」
マリアは洋平の住んでいる場所の住所をメモに書いた。そしてそれを麗奈に
渡した。
「あなたたちは、上手くやっていける。例え結婚しなくても、お互いを高め合っていけるわ。だから、がんばって」
「マリアさん・・・」
麗奈が瞳に涙をためた。
しばらくして、涙が落ち着いた麗奈が言った。
「ありがとう。マリアさん」
「いえ、私はみんなが幸せになればいいの。そのために不思議な力を授かったと思ってる。私はあなたがうらやましいわ。私は、あなたのクラシック占いと違って、自分の運命を見ることができないから」
麗奈が、涙を拭いた。
「じゃあ私、マリアさんのこと占ってあげる。私、『卑弥呼』の最高の技術を
使って」
「それは結構よ」
「占なわせて! 私のタロットの力も見てほしいの」
「ううん、わかったわ」
麗奈は、マリアのテーブルの近くに椅子を持ってきて座り、マリアがテーブルに適当に置いたタロットカードを操った。麗奈は鮮やかな手さばきで綺麗にカードを並べた。マリアは目を見張った。
「さすが、人気の占い師『卑弥呼』ね。動きが美しい!」
麗奈はカードをめくっていった。麗奈の表情が変わった。麗奈は青ざめた。
「あの・・、マリアさん・・」
「どうしたの?」
「これ言っちゃっていいのかな・・」
「どうぞ」
「マリアさん、あなたは死ぬかこの世からいなくなります。1カ月以内に・・」
「えっ?!」
「それに、あなたの付き合っている人も同じ時期に死にます」
マリアから笑顔が消えた。
マリアの未来日記 アラカルト
「マリアと麗奈」 完
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