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第19話 特許
今朝から満員御礼状態で、下げられた皿を俺はひたすら洗っている。
昨日、食べた人から話を聞いた人が多く、朝の開店前から人が並んでいた。
ビルさんは早い時間から起きて市場に仕入れに行き、今朝はスープを作っていた。
サラダは野菜スティックにし、マヨネーズを付けて食べてもらう。
マヨネーズも評判がよく、いずれは店頭販売するのも良いかもしれない。
そして嵐の様な朝の時間は過ぎた。
「「「「 あなた、あなた~!! 」」」」
売上を集計していたサリーさんの絶叫が……。
今朝の売上は89,600円。8回転したことになる。
肉を使っているので原価はかなり高いが、借金を返済し3人家族を養うくらいは残るはずだ。
こんなに忙しいなら人を雇ってもらわないと。
宿代を払って宿を手伝っている俺はどんなプレーヤーだよ。
「エリアス君、今朝もお疲れさん。手伝ってくれて悪いね。ついお客だってことを忘れてしまって。まるで家族のようだよ。従業員を雇わないといけないな」
「そうね~。ここに来たばかりのエリアス君は、心が無いような。そこにいるのにいない様な感じだったな。でも最近は顔にも表情が出てきて」
と、ビルさんとアサリーさんに言われた。
そうだ。自分でもそう思っている。
転移したばかりの頃は中身が空っぽで、人格がないような感じがしていた。
最近ではその空洞に段々と何かが入ってきて、暖かい感じがすることがある。
言動も精神年齢17歳に、引っ張られているのかもしれないな。
「そういえばエリアス君。『味元』と『マヨネーズ』の特許は取らないのかい?」と、ビルさんが聞いてきた。
「特許ですか?」
「そうだ。商業ギルドで特許を取っておけば、誰かがまねをするのを阻止する事が
できるんだ。逆に作り方を公開することになるが、教えることに対して情報料が
貰え教えてもらったら、店は使用許可書を貼っておくんだ。情報料を払っている事を証明するためにね」
更に許可書を張っていない店で酷似した物を出している場合、訴えることも出来るそうだ。
「そうですね。『マヨネーズ』は真似されそうですから取っておこうと思います。『味元』は手間がかかり無理だと思うので登録しませんけど」
『マヨネーズ』と言う新しい調味料が世に出て皆で作り方を共有することで、新しいレシピが生まれ町全体の店が繁盛していくかもしれないのだ。
と、いう事で今日も俺は商業ギルドに来ている。
中に入ると受付はまたノエルさんだった。
「家探しの件はすみませんでした。しばらくは購入せず『なごみ亭』に居ることにしました」
「いいえ、お気になさらず。本日はどの様なご用件でしょうか?」
「調味料の特許を申請に来ました」
「調味料の特許ですね。内容により相手からもらえる情報料が、変わりますのでお待ちください」と、奥に下がりギルマスの部屋に案内された。
部屋に入るとアレックさんが
「今日は調味料の特許申請かい。そういえば『なごみ亭』は大盛況だって言うじゃないか。君が一枚噛んでいるのかな」
「噛むだなんて人聞きの悪い。料理に『味元』を使い、新しい調味料と合わせて店に出しただけです」
「新しい調味料は、持ってきているのかな?」
「はい、これです」
俺はストレージから『マヨネーズ』の入った入物と野菜スティックを出した。
蓋を開け
「これに野菜を付け食べてみてください」と言った。
アレックさんは言われた通り、野菜に『マヨネーズ』を付けて食べ始めると…。
『ボリ、ボリ、ボリ、ボリ』
無言でウサギのように、野菜を食べているアレックさんがいた。
「で、どうでしょうか?生野菜だけではなく肉にも合い、これから色んな可能性が
広がる調味料だと思いますが」
「旨い。『なごみ亭』大盛況の理由は『味元』と、この『マヨネーズ』のおかげか。君はいったい。黒髪に黒い瞳、この国では見ない容姿だ」
「死んだ両親から聞いた話では東の国から船で、大陸に流れ着いたと聞いています」
「国の名は」
「さあ、忘れました」と、俺はしらをきった。
「ま、そうか。話を戻そう。『マヨネーズ』は画期的な調味料になるだろうな。『味元』は申請しないのかね」
「『味元』は真似出来ないと思うので、必要ありません」
「ほほう、君以外は作れないという事かな。増々、君に興味がでたよ」
「あはは、情報料ですが内容により金額が変わると聞きました。お幾らくらいでしょうか?」
「情報料か。これなら5,000万円くらいだな」
「は?」
「だから5,000万円だ。この調味料を量産し売れば、財が築ける程の価値がある」
「はぁ、もっと安くても良いですけど」
「いや、そういう訳にはいかない。ギルドの信用に関わるのだ。安くするとギルドは適正な価格が付けられないと思われてしまうからだ」
「はぁ、分かりました。ではそれでお願いします」
特許申請料5,000円を払いギルドを後にした。
『なごみ亭』だけが『味元』と『マヨネーズ』を使い売上を伸ばすと他の店から反感を買う。
だからせめて『マヨネーズ』だけでも、他の店でも作って出せるようにしたかったんだけど。
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それ以降、アレンの街では風前の『食べもの』ブームが起きた。
他の州からも噂を聞いた客が多数押し寄せ、いつの間にかアレンの街は「食文化発祥の地」と言われるようになった。
今までにないくらい活気に包まれ、賑わいのある街へと発展していった。
数年後、王国が情報料5,000万円を支払い『マヨネーズ』のレシピを購入した。
原材料の大豆の生産に力を入れ、雇用促進につながり住民も豊かになった。
アレンの街以外のジリヤ国全体にも販売網を広げ、隣接した他国近郊に工場を作りそこから輸出し富を築くのであった。
他国は『マヨネーズ』を失う怖さのあまり、ジリヤ国と友好を結ぶため王国同士の婚姻が頻繁に行われ国同士が強く結びついた。
後にジリヤ国、メルヴィン国王は戦争を食文化で回避した『善王』と呼ばれ、『剣を取るならマヨネーズを』という名言を残した。
※ジリヤ国はアレンの街がある国です。
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